同僚とはよく実家の田舎っぷりを自慢しあう。
まあ自虐のふりをした郷土自慢みたいなものだ。
あるとき私は、兄が神隠しにあったことを話した。
結論から言えば、捜索範囲が広大だった単なる迷子の話。
しかし同僚は、ふっと真顔になり、ぽつぽつと話始めた。
地元の集落で『お山』と呼ぶ山がある。
小さなお社があったり、山頂近くには古い墓石のようなものが並んでいたりするけど、いまはその云われはわからない。
山腹には、集落からも見えるような目立つ大きなクスノキがあった。
根本には小さな祠もあって、年寄りは『大クスノキ様』と呼んで拝みに行ったりしていたらしい。
ある時、未就学の年齢の同い年の子供が居なくなった。
集落じゅう総出で、田んぼや畑を探してもどこにもいない。
夏の長い日も暮れて、集会場に集まった大人たちが、やれ明日は朝から山狩りかと話していると、その子がひょっこり戻ってきた。
聞くと、大クスノキに木登りして遊んでいた。
気が付いたら日が落ちていて、木から降りられないし暗くて怖くて泣いていた。
すると、知らない老人が木から降ろしてくれて、おやつをくれ、ここまで送ってくれたという。
半ば呆けた年寄りは、大クスノキ様のお陰だと合掌したが、他のものは首を傾げた。
というのも、大クスノキは半年前の落雷で木が裂け、危険だからということで切り倒され、今は切り株だけになっていたからだ。
「にっぽん昔ばなしみたいだよね」と同僚は続けた。
その子も今はやはり集落を出て、そこで世帯を持って普通に暮らしているという。