もうお爺さんになってしまった猟師の若い頃の昔の話。
その日、彼はほとんど誰も立ち入らない「蛇山」という山に入った。
周りにいくつか山があるが、その山は地元の部落の人も忌み嫌って入ろうとせず、草はぼうぼうで蛇はあちこちに出る不思議な山なのだ。
なぜかその山だけ、昔から「二首の蛇を見た」とか「蛇がやたらでかい」とか「見たことも聞いたこともない毒ヘビがいる」だとかとかく噂があった。
その噂の通りなのか、人が立ち入らないせいなのか、なるほど、やたらと蛇が多い。
十歩歩けばガサガサッ!猟犬が歩いてもガサガサッ!と、ひなたぼっこ中の蛇たちがウジャウジャいた。おまけにみんなでかい。
ほとんどの蛇が2mはあろうかという大きさ。
小さいモノもいるが、尋常じゃなく蛇が多い。
そして、沢に出たとき、ちょっと一休み・・・と腰を下ろすと、すぐ近くに石が積み重なっている場所がある。
「あ~一昨年の大水で石が流されたのか・・・蛇の巣になってそうだな」
とつぶやいたとき、その石の間からニョロニョロと蛇が一匹出て来た。
どうやら予想通りに蛇の巣になっているようだ。
そんなことはどうでもいい。
この蛇は何だ?
その蛇は、熊のような丸い耳をもち、体が血のように赤い。
特別でかいわけではないが1m少しはありそうだ。
こんな蛇は今までに見たことも無ければ聞いたこともない。
しかも動物みたいな耳があるなど、もはや蛇としておかしい。
もっとよく見れば蛇なのに手がある。
小さくか細いが、明らかに手だ。
手を振り上げ、尻尾を振って威嚇している。
すると、猟犬が勝手に飛びかかった。
しばらく絡み合った後、蛇は巣へ逃げて猟犬は脚を噛まれて泣いている。
そこでハッとして、猟犬のケガを診てみると血が出ている。
毒ヘビだったのかもしれない・・・。
急いで犬を抱えると、村に向かって走った。
しかし、自分が数歩歩いたところで、猟犬は四肢をピーンと伸ばして息絶えた。
アレは毒ヘビだったのだ。
直感でそうわかった。
以来、その山には立ち入らず、その蛇の名を調べ続けたがついに分かることはなかった。
今でも図書館などにいっては暇なし調べているが、未だに分からないのだった。