死体特有の異臭はしなかった

カテゴリー「不思議体験」

深夜の雑居ビルの警備のアルバイトにて。

新入りであった私は、まず同僚と2人で回ることになった。
決められたルートを懐中電灯片手に歩くだけという極めて楽な仕事であった。

特に何事もなく、こりゃ楽なバイトだなと思い始めた頃、3階の奥にあるトイレの前に差し掛かった。

すると同僚が「トイレに行きたい」と言い始めた。

新入りである私は断る理由もなかったし、私も軽い尿意を催していたため、一緒にトイレへと入った。

何の変哲もない、小便器が4つ、その向かいに大便用の個室が2つあるという、ごくごく普通の綺麗なトイレであった。

同僚は大きい方らしく真っ直ぐ大便の個室へ向かって行った。
こんな時間に誰もいるはずないのに、癖なのか、わざわざノックをしている同僚の様子が可笑しかった。

当然ながらドアの向こうから返事はなく、そのまま同僚はノブに手をかけた。

開かない。

中に誰かいるのか、それとも扉の故障なのか何度かノブを回していたが、結果は同じようであった。

諦めたのか、同僚は隣のトイレへ入っていった。

用を済ませた私は、開かずのトイレが気になり始め、件のトイレの前へ。

ノブを見ると、中から鍵が閉められているのを意味する赤い塗装を覗かせていた。

誰か入っているのだろうか。

「用を足してる間に、心臓発作か何かで意識を失っているのかもしれない」

「酔っ払いが酔い潰れて寝てしまったのか」

後者であることを祈り、ドアに耳を当ててみた。

しかし、鼾は聞こえてこず、隣の個室から気分の悪い音がする以外は無音であった。

前者であったら大変だと思い、私はいろいろ考えてみた。
その結果、私がとった行動は「ドアの上から中を覗き見る」ということであった。

掃除道具入れからバケツを持ち出し、足場を作り、ノブに足をかけ、体を思い切り上にあげ、ドアの上部に手をかける。

そして中を覗いた。
そこにあったのは、サラリーマンらしき中年男性の死体であった。

よく見ると小蝿が飛んでおり、首にネクタイをくくっていた。
なるほど、自殺したようである。
が、不思議と死体特有の異臭はしなかった。

普通こういう場合は、警察を呼ぶのが最善であると思うのだが、その時の私は何を思ったか、他の同僚にも知らさなければと思い、うんこをしている同僚を残し、警備員の詰め所へと向かった。

特に焦らず、極めて冷静にである。
しかし、よくよく考えてみれば、このビルには私と今うんこをしている同僚しかいないのである。

もちろん詰め所には誰もいなかった。
とりあえず戻ろうと先ほどの3階の奥へ向かった。
しかし、そんなところにトイレなどなかった。

どんなに探しても、トイレはない。

場所を間違えたか、階を間違えたか全てのトイレを探してみたがトイレはない。

そこで記憶が終わっている。

後日談。

うんこの同僚の顔がどうしても思い出せない。
死体の顔も思い出せない。
そのビルがどこにあったか思い出せない。

その後どうやってそのビルから帰ったのか、そのバイトに至った経緯も思い出せない。
なぜ、警察を呼ぶという行動をしなかったのか、誰もいないのに、詰め所へ向かったのか。

そもそもそんなバイトしたか?

警備員のバイトなんかしたか?とも最近思っている。

矛盾、疑問、不可解な点が多く残ることから多分夢だと思うが、光景だけはハッキリと頭に残っている。

記憶を遡りながらの文章の上、支離滅裂であるが、夢オチ話だと思って、軽く流して見てもらえるば幸いである。

もう1つ不思議な事を言うならば、今こうして部屋でテレビを見ながら投下している自分の行動に、非常にデジャヴを感じているということである。

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