壁の下敷き

カテゴリー「不思議体験」

俺が行っていた小学校は山際にあり、グラウンドも校舎より高い位置にあって「上庭」と呼ばれていた。
そこの上庭の端のほうに当時でさえ古く誰も使わないようなトイレがあった。
一応小の方は使えるが、大の方は完全に板で封鎖されていたのね。
話によるとそれは父親がガキのころからあるトイレでそのころからすでに大の方は封鎖されていて「開かずのトイレ」と呼ばれていたらしい。

まあ、そんなものがあれば当然のごとく探検したがる奴が出てくるわけで俺と、Kという奴とⅠという奴でその開かずのトイレを探検することにした。

当時から3人で悪さばかりしていたから、今回も何の迷いもなく当然のようにやろうということになった。

日曜日の昼間、3人で集まり、探検開始。
入口に鍵がかかっている。
休みだから先生がかけたのか?

Kが横に回ると「ここに小さい窓があるぞ」と指をさした。
頭より高い位置にあったが飛びつけば入れそうだった。
何とか協力して中に入ると、実に嫌な空気だったことを覚えている。
もう何十年も開けていなかった扉から出てくるような古びた臭い。
そして昼間なのに気味悪いくらいに薄暗い。
光源がその窓しかないのだ。

とにかく、目的の大の方に貼り付けてある板をはがすため、持ってきたバールで3人がかりで必死で板をはずした。
はずし終ったときには3人とも相当疲れていたがあとはこのドアを開けるだけ。
開けるときはさすがに緊張したが、押すと何の抵抗もなく、自分から開くようにドアは開いた。

中には汲み取り式の便器が1つ。
そして正面の壁には梵字のようなものが大きく書かれていたのだが、書かれていたというより、ウンコのようなもので擦り付けて書いてあるといった感じだった。

3人は「なんだこれ」「気持ちわりい」「まあでも何もなかったな」などと口にしていたが俺は内心ほっとしていた。
もっと恐ろしいものが出るような気がしたから。

しかし、次の瞬間外から声がした。

「おい、誰かおるんか」

先生ではなかった。
近くに住むじいさんといった声。

俺たちは焦った。

「やべえ、見つかる!」
「どうすんだよ!」

外からは鍵を壊そうとガンガンと何かで叩いているらしい。

「おい!そこの扉を絶対に開けちゃならん!!承知せんぞ!」

叱るというより、殺意のこもった叫び声だった。
俺たちは本当に恐ろしくなった。
トイレの異様な光景より、外のじいさんのほうが恐い。
叩く音はさらに大きくなり鍵というよりドア全体を壊そうとしているようだった。

叫び声も「承知せんぞ!承知せんぞ!」

しか言わなくなり、見つかったら何をされるかわからないと本気で思った。

このとき、入ってきた窓から逃げればよかったのかもしれないが、3人とも気が動転していた。

不意にⅠが「ここに隠れよう!」とこじ開けた大の方の部屋に3人を押し込めドアを締めた。

そのとき、俺は心臓が止まりそうになった。
閉めたドアの内側には、墨で描かれたような絵と、それを取り囲むようにびっしりとお札が貼ってあった。
絵は相当色褪せていたが、数人が1人の人物を取り囲み、蹴ったり鍬のようなもので叩いたりしているように見えた。

中心でリンチにあっている人物には首がなく、下に転がっていた。
俺を含め、3人とも叫んでいたと思う。
その叫び声を聞いて、外のじいさんはさらに気が狂ったように叫び中に入ろうとしていた。

俺はどうすることもできず、狭い部屋の中で震えているしかなかったが、Ⅰが突然「あははははは!」と笑い出し後ろの壁を蹴り始めた。
妙な文字が書かれている壁だ。

俺とKは必死で「何やってんだ!」と押さえたがⅠには俺たちは見えていないようで狂ったように壁を蹴りはじめた。

外ではじいさんが扉を破ったらしく、足音が近づいてきてドアを開け、俺たちを引っ張り出した。

じいさん:「何しとるんじゃ!承知せんぞ!」

もう俺とKは「ごめんなさい、ごめんなさい」というしかなかった。
Ⅰは相変わらず笑い続けていた。

そして一旦トイレの外に出されたのだが、手をはなされた隙にまたトイレの中にもう突進して行き、あの壁に何度も体当たりをしていた。
そして、何度目かの時に、壁が崩れ、Ⅰはその下の崖に転落してしまった。

そのあとのことはよく覚えていないが、じいさんが救急車も呼ばず冷静に「あいつはもう助からんぞ」と言っていたことと、親と学校から死ぬほど怒られたこと、そして「Ⅰが植物状態になった」ということで警察から事情を聴かれたことは覚えている。

それだけの出来事があったのに、あのトイレはそれからもかなりの間壊されることなくその場にあった。

あのときⅠに何が起こったのかわからないが、今Ⅰが生きていたら謝りたい。

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