知り合いの話。
彼の義理の父親は猟が好きで、地元の猟友会に所属している。
仲間数人で小規模な巻狩りをおこなった時のこと。
猟銃を抱え、勢子が獲物を追い立ててくるのを待っていると、リン、という鈴の音が聞こえた。
さては熊除けに鈴を付けた登山者でも迷い込んだか??
そう考えているうち、どんどん音は近づいてきた。
しかし鈴の持ち主の姿は一向に見えない。
さすがに不気味に思い始める頃、別の方向からも鈴の音が聞こえてきた。
リン、リン、リン、リン
気がつくと義父は四方を鈴の音に囲まれていた。
震える手で無線を操り、仲間に状況を知らせる。
「皆でそこに行くから動くな」
見知った顔が視界に現れるまで、非常に心細かったという。
皆が揃うと、そこで山を降りることになった。
鈴音も周りを取り囲みながら、ぴったりと着いて来る。
麓付近の沢を超えた時、音はぱったりと着いて来なくなった。
「流れ水は渡れない輩だったか」
誰かがそう言って息を吐いた。
呆れたことに、義父らはそれ以降もその山で、度々狩りをおこなっている。
もっとも奇妙な物に出くわしたのは、その時以外ないそうだ。