「あと、一歩だった」の意味

カテゴリー「不思議体験」

実家の裏はすぐ山。
人一人ぐらいは通れる獣道と竹藪がある。
ガキの頃はそこでよく一人で遊んだ。

さらに山の奥へ進むと車が一台しか通れない道路に出る。
昔の道路なのでかなり蛇みたいにクネクネしてて軽自動車なら余裕だけど普通車になると幅がギリギリ。
でも山道の間に獣道だけど上へ上がる為の近道があり、そこもすれ違いにくい幅なので一人ぐらいしか通れない。

でさ、どうせまた寮に戻るから墓参りのついでに少しだけ山を登ってみた。
ガキの頃といっても、もう数十年前の話だからあの頃に知っていた自分だけの獣道なんてもうどの辺りにあったのか分からない。

身長が高くなって目線が変わっただけかもしれない。
マムシがいる恐れもあるから注意深くしゃがんで草や枝の隙間から奥を覗くようにして、ガキの頃はこれぐらいの目線で冒険したかな?ってちょっとしみじみ。

もう戻るかといざ、立ち上がろうとしたんだけど奥から何かが動いた気がした。
最初は小型の野性動物かも??って思ったけどいくら動物が好きでもそこまで近付けなかった。

行けないんだよ。

なにせ、茂みが邪魔してるし奥は泥濘だからさ・・・。
ガキの身長なら道は分かるし、よくそこの泥濘をジャンプして障害物を避けて奥へと進んだけど、大人の体重じゃ草で地面が見えにくい。
だからガキの頃の自分にとってはいい場所だったんだ。
大人なんか体重の重みでズブッと沈んで転けるのがオチ。

また草や茂みが動く。
しゃがんだままだから獣道の隙間から一瞬だけ何かが通りすぎるのが見える程度。
白っていうより、灰色・・・?
カモシカの子供にしちゃ小さいし足首くらいの大きさかな。
何となく思ったんだ。

「・・・クネクネとか八尺様、ケンソウメツってものでもないよな?」

オカルトや観覧注意でよく読んでいるから脳裏に浮かんでしまった。
山に関わるとなれば居てもおかしくない。
まだ昼なのに山は少し暗いのはいつものこと。

そろそろ引き上げるか、と立ち上がった瞬間・・・。
目の前にさっきまで誰もいなかった筈の老婆がいつの間にか立ってた。

老婆の髪は肩までで背中に小さな青い籠を背負ってた。
服装は昭和な雰囲気の黒い着物に腰には鎌と鉈。
たまにこういう方はよく見掛けるので珍しくもない。
山菜でも採り来た人か??

見たことのない老婆とかガキの頃から余所者か地元の人か全く考えなくて、ただ黙って頭を下げて場を逃げるように去った。

何処の人だろ?

気になってもう一度だけ顔を見てみようと三歩進んで足を止めて振り返る。
誰もいなかった。

・・・あぁ、よくあるホラーとかのお決まりパターン。
でも、この場所はしゃがんでしまえば人間なんて見えづらい。

・・・もしかしてそこに山菜でもあったのかな?

そうであれば申し訳なかった。
足を進めた瞬間に枝に引っ掛かって転びそうになり、軽くジャンプして何とか体型を整えた。
すると背後から声がした。

「あと、一歩だったのに」

「昔もあと、一歩だったのに」

しゃがれた声がハッキリ聞こえてきた。

凄い鳥肌が立ち、ふと地面をよくみると枯れ葉で気付かなかったけど古びた鎌の刃が竹の子みたいに出てた。
まるで転んだときに喉に直撃できるかのように刃が立てられていた。

鎌は老婆が持っていたものと同じ。
鉈は地面には見当たらなかったが木の上にあるとすれば・・・、なんて考えてるうちに恐ろしくなってきた。

後ろを振り向こうとも出来ずに唖然とすると、雨でもないのに白い霧が俺を包むようにしてスー・・・と山の奥へと消えていった。

ただ、その霧は某ドラマ版の放課後の魔術師のお面に近い顔でさらに鳥肌MAX。
同時に恐怖心MAXで急いで山に下りた。

家に辿り着いて何事もない山を見つめながら、「実は狸か狐に化かされた気分ってこんなものなのか?」とスイカをかじりながら思った。

「あと、一歩だったのに」って??
前にも会ってたのかはガキの頃だし、記憶なんてない。
単に忘れてしまってるからなんとも言えない。
気になることは昔も、って言葉。

あと一歩、俺は三歩で止まった。
もし、四歩目に振り向こうとしたら・・・。

四=死・・・?

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