朽ちかけた墓石

古く、大きな木に囲まれたその場所には、本で読んだ通り、朽ちかけた墓石があった。

その昔、この地に住み着き、50年ほどの間に周辺の山々に多くの棚田を作り、開墾し、豊かな集落を築いた集団が居た。

ある日突然、集団で姿を現し、誰も興味を持たなかったこの地を驚くべきスピードで開墾したのだ。
彼らは工芸技術や歌舞音曲にも優れた才能を示し、この地を支配していた豪族にも受け入れられた。

応仁の乱と呼ばれる騒乱が広がり、菜畑の虫のように日本各地を蚕食し始めても、戦略的な意義のないこの土地は争いと無縁で、村人は多くの実りを手にする事を考えていればよく、そのために祈り、歌い、踊っていた。

遠くの空が真っ赤に焼けるような争いがあり、領主様が変わったらしいという噂が立ったが、だからといって自分達の生活が変わる事はあるまいと、彼らはのどかに考えていた。

だが、新しい領主は多くの兵力を必要としており、そのための手段として、集落ごとに兵力の動員数を割り当ててきた。
無論、彼らの村も例外たりえず、彼らの中から兵士として選出された男達は、軍事訓練に駈り出された。

数週間後、訓練を終えた男達が村に戻った翌朝、村は無人になっていた。
捜索が行われ、探索の手は領内全域に広がったが、彼らの手がかりは見つからなかった。
もともと戦略的価値のない位置にあった村は焼かれた後に放置されたが、墓地に切り花が絶えることはなかった。

そして今、一番近くの町からでさえ徒歩で6時間もかかるその墓地で俺は、美しい花が供えられた朽ちかけた墓石を眺め、なかば呆然としている。
触れてみると造花ではない。

この山塊を3日かけて横断する予定だ。
彼らを見かけたり、あるいは会えるかもしれない。
予感とも期待ともつかない喜びに、少し胸が躍った。

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