知り合いの祖母の話。
戦時中、疎開先の山村で防空壕を掘ろうということになった。
どう考えても米軍戦闘機が来襲するような場所ではなかったらしいが、村人なりに戦争に参加しようという心の働きから、そういう行動をしたのではないか。
というのはお祖母さんの説明だ。
そんな空気の時代だったらしい。
村外れの森に手頃な大きさの洞窟があったので、そこを拡張することにした。
作業にかかり数日、おかしなことが起こり始める。
洞の奥で一緒に作業していた仲間が、いつの間にか居なくなっていたのだ。
まだ若い人妻だったという。
出たのに気がつかなかったのだろうと思っていると、洞前で作業している者たちは誰も外には出てこなかったと言い切った。
健康な男性のほとんどは戦地に出ているので、堀手はほとんど老人や女手ばかり。
狭い村のこと、皆素性は知れている。
居なくなる理由など誰にも思いつかない。
不気味に思いはしたが、それでも作業を止めることはなかった。
じき、二人目が消えた。
年を取っていたが、やはり女性だったという。
三人目が居なくなった時点で、防空壕の話は立ち消えになった。
これもやはり女性だった。
後で調べたところ、どうやら件の洞穴は、良くない因縁のある場所だったらしい。
大昔に何かを追い込んで狩ったという言い伝えがあったみたいだが、それについて誰も詳しくは知っていなかった。
その洞の話題は村の禁忌になり、誰も口に上らせなくなる。
特に女の人は、昼でもその近くに行くのを嫌がるようになった。
間もなく終戦を迎え、疎開組の人たちもその村から引き上げた。
その後、行方不明になった人たちが帰ってきたかどうか、お祖母さんは知らない。