死神をみた。
今か10年前の真夏、咽頭腫瘍で1週間入院した。
転勤で行った先のため、家族もなかなか来れず、その時付き合ってた彼女だけが支えだった。
といってもこの話彼女全く関係ないんだが・・・。
俺が入院した部屋は一番角の3人部屋。
元々は結核とかの隔離部屋だったようで、トイレも風呂もあった。
入口から入ると右手手前がスイカ農家のスイカさん、窓側がイビキのうるさいイビキさん、その対面が俺だった。
スイカさんは時折奥さんが見舞いに来てはその度に俺にスイカをおすそわけしてくれた。
甘くて美味しかった。
イビキさんはほぼ一日イビキをかいていた。
入院五日目の夜、あれは現れた。
相変わらずイビキさんのイビキがうるさくて、しかも昼間寝てるから夜すぐに寝れず、夏の暑さも相まって中々俺は寝付けなかった。
カラカラカラカラカラ・・・。
入り口の戸がゆっくり開け放たれた。
巡回にしてはゆっくり開けるな?
それにナースの足音ってこんなだっけ?
・・・と思い、違和感を感じて目は閉じたまま耳に集中して聞いていた。
コツン、コツン。
ずいぶんゆっくり歩く革靴の音がした。
医者か?と一瞬思ったが、そっとカーテンの隙間から覗いて違うことがわかった。
スイカさんの枕元に立ち、まるでキスするほど顔を顔に近づけ、おでこから顎先くらいまで舐めるように見ているおっさんがいた。
おっさんというよりは中年?
本当に普通のサラリーマンみたいな奴だった。
ワイシャツに背広を羽織り、ネクタイをしめてスラックス。
通勤電車でよくみかける格好だった。
肌だけは真っ白で不気味だったのが印象的だった。
・・・と思っていたらサラリーマンは起き上がって、イビキさんの方に歩いた。
スイカさんのときと全く同じように顔を寄せて・・・まてよ。
次、俺んとこくるのかこれ。
めっちゃパニックになって布団を頭まで被って目を思い切り閉じた、完全に震えててたぬき寝入りばればれだったろう。
コツン、コツン、コツン、コツン
・・・きた!
頭のすぐそばで足音が止まった・・・!
頭のすぐそばで目を閉じてもわかる、なにかがある感が恐怖だった。
舐め回すように今俺を見ているんだろう。
どれぐらい時間がたったかわからないがシーツをかぶった手の力を入れすぎて痛いなんて考えが出てきた頃、足音が去った。
再び止まったところを見てみると、イビキさんの顔だった。
さっきよりもずっとずっと舐め回すように見ていた。
頭の先から足の先まで。
ずーっとずーっとずーっと。
見るのに疲れ、一瞬横になった直後、サラリーマンは、足音もたてず消えた。
翌朝、イビキさんは息を引き取った。
以上、入院したときの恐怖でした。