仕事の関係で横浜からS県S市にある社宅に引っ越してきた。
こっちに来て3ヶ月、ようやく周囲の環境にも慣れ、休日もまともに取れるようになった。
そんな土曜日の朝、身体を鍛えるのが趣味な俺はランニングコースにまだ足を踏み入れてないF山の方へ行ってみようと決め家を出た。
緩やかとはいえ延々と続く昇り道、思っていたよりキツイ。
それでも殆ど休憩をとらず2時間以上走り続けた。
すると前方に集落が見えてきた。
小川をはさんで30軒近い家が立ち並んでいる。
自販で飲み物でもと思い、集落の中に入ろうとしたとき、妙な悪寒に苛まれた。
土曜日の真昼間なのに人っ子一人見えず、車も通らない。
無音の状態が続く。
かすかに水の流れる音は聞こえるが・・・。
・・・今まで喧騒の街に暮らしていたんだ。
田舎なら何も珍しくないだろう。
でも梅雨の合間の晴れ間なのに、どの家も窓を閉めきっている。
そして『ここは土地が安いのに、何故こんな辺鄙な場所に住んでいるんだ?』という疑念が沸いてきた。
妙な圧迫感・・・それは僅かながら恐怖感に変わっていった。
俺は今きた道をダッシュ気味に走りだした。
月曜日、地元出身の同僚に馬鹿にされるのを覚悟の上で話した。
だが、意外にも彼は表情を一変、真剣な顔で話はじめた。
同僚:「あそこは行かない方がいいですよ。うーん、詳しいことは言えないんですけどね・・・」
上司にも訊いてみた。
上司:「ああ、◯◯か?あんた霊感でもあるのかい。あそこは正月でも餅は突かないんだよ。何故って?餅が真っ赤になるからね」
それだけ話すと、これ以上は訊くなと言わんばかりに机の書類に目を落とした。
何故、いきなり餅つきの話?真っ赤??・・・あそこで何があったんだ???