知り合いの話。
彼の叔父さんは、奥山で炭焼きをしている。
泊まり掛けで遊びに行った時に、そこで不思議な動物を見たという。
深夜炭焼き釜の前で談話していると、「ふっふっふ」という音が聞こえた。
「何か来た」と思い外を見やると、蒼白く光る生き物が林の中にいた。
馬だ。
大きくはない。
しかし仔馬ではないような印象を受けた。
何とも奇妙なことに、馬は身体から薄い光を発している。
月も出ていない暗闇だったが、その身体は闇の中にはっきりと確認できた。
蒼い馬は、下草の中に顔を突っ込んで何やら探している様子。
やがて上げられたその口には、太い蛇が咥えられていた。
そのままかっかっかと一息に呑み込んでしまう。
と、いきなり馬は彼の目を真正面から覗き込んできた。
爛々と光るその目に身が固まった。
知り合い:「こいつは馬じゃない!馬なんかである筈がない!」
身動ぎも出来ずにいると、馬は彼に興味を無くしたのか自分から目を外した。
あっと思う間もなく、そのまま闇の中へ姿を消してしまった。
「大丈夫か?」叔父さんの一言で我に返る。
足が震えて立っておられず、そのまま尻餅をつく。
「何あれ!?」と問いかけると、あっさりとした答えがあった。
叔父さん:「この山の神様さね」
叔父さん:「水の道を操るのかどうか知らないが、あの馬が地面を蹴飛ばすと、そこから清水が湧くのさ。干魃の時にもかなり助けてくれたそうだ。」
だからその里では、昔から山神様として敬っているのだと。
叔父さん:「実際向こうにこちらを助けるつもりがあったかどうか、それは本当のところわからないがね。自分が水を飲みたかっただけかもしれん。しかしまぁ、そういう訳だからちょっかいは出すなよ」
叔父さんがそう釘を刺すと、それ以上この話題は続かなかった。
彼は今でもちょくちょくそこに遊びに行っているが、あれからその蒼い馬を見たことはないそうだ。