春の晴れた日のこと。
友人宅に遊びに行き、ドアチャイムを押した。
友人は在宅のはずだったが、応答がなくしんとしている・・・。
玄関先を離れると、庭におじいさんがいるのが見えた。
大きなブリキ製のジョウロに、ホースで水を注ぎ込んでいる。
庭には簡易な造りの台がいくつも並べられており、その上にはシクラメンの鉢植えがずらり。
100鉢ほどありそう。
立ち去ろうとしていたのだが、目が合ったので挨拶をした。
私:「こんにちは。○さんはおでかけ中ですか?」
おじいさんはそれには答えず、ブリキ製のジョウロを手渡してきた。
「向こうから・・・」と、台の端を指さすおじいさん。
なぜか鉢植えの世話を手伝うことになった・・・。
足つきの陶器の鉢だったり、黒いビニール製のポット苗だったり、シクラメンの花も桃、白、紫とさまざま。
たまにシクラメンに似た、だけど葉っぱが違う、別の花がまじっていた。
私:「全部シクラメンかと思ってました、これカタクリの花ですよね」
返事はない。
おじいさんはとても寡黙な方のようだ。
「きれいに咲きましたね」と言うと、無言でうなづいていた。
・・・という夢をみたんだ。
どこかほほえましい内容だったので、その友人に「こんな夢みたよ、○さん居なかったけど」とメールを送った。
夢に出てきたのは、友人が以前ひとりで住んでいた家だった。
持ち家だと聞いていたが、家族は他県へ移住しており、その後友人も引っ越してしまった。
今は空き家になっている。
『出窓に置いてたクラメンの鉢植えが、今日一輪咲いてた。なんか偶然』
友人から、花の写真が添付された返信がきた。
次の日、もう一通メールが届いた。
『じいさんが生きてた頃、自分は覚えてないけど、あの家の庭にカタクリが植えてあったって叔母が言ってる』
夢に出てきたおじいさんの風貌を聞かれたので『登頂部不毛、細身長身、すこぶる寡黙。全体的に肌色だったから、ひょっとして全裸だったかも』と返信した。
『それ全裸じゃなくてラクダじゃん。水やり手伝ってくれてありがとう』と返信がきた。
単なる夢と偶然と言ってしまえばそれまでだが、何だか嬉しかった。