都市伝説的な「かとう先輩」

カテゴリー「不思議体験」

今まで忘れていたのですが、思い出してしまったし、誰かに聞いて欲しいので、なんとなく書いていきます。

これは私が高校二年生だった頃の話。

夏休みに入ったばかりで、その日は登校日でした。
戦争の学習?だったと思います。

午前中に授業が終わり、よっしゃー帰ろう、と気分が上がっていたときに先生に呼ばれ、部活に入らないか?とかしつこく誘われました。

とはいえ今さら入っても三年生になったらどうせ幽霊部員だし・・・とかなんとか先生と言い合いになっていたら、いつのまにか夕暮れ時になっていました。

私はいつも歩いて下校していたのですが、他のクラスメイト達はみんな先に帰ってしまっていて、その日は一人で帰っていました。

で、帰り道の途中にバス停があるんですよね。
木で作られた小さな屋根のあるバス停。
そのバス停に、一人の男子生徒が立っていたんです。

私と同じ学校の制服なんですが、真夏なのに、冬用の黒い長袖の制服を着ていました。
見るものが田んぼしかないド田舎なので、バスは一日に数台しか来ません。
今日はもう、最後のバスはとっくに通り過ぎているはずでした。
それなのに、なぜかその人、バス停から動かないんです。

バス停の前を通るとき、無意識に足を止めてしまいました。
いつもならスルーして通り過ぎるのですが、思わず・・・。

背が高いのでたぶん先輩の誰かだろうと思ったんですけど、その”先輩”は泣いていたんです。
立ったまま両手で顔を覆い隠して、すすり泣いていました。
ひっく、うぇ、ひっく、あう、うぇ、って。

自分よりも大きな体格の先輩がマジ泣きしてたんです。
早く帰りたかったし、関わると面倒な事になりそうだったし、やっぱり無視して帰ろうとしたんですが、その先輩の足元に、何冊かのノートが、地面に投げ捨てられたかのように散らばっているのを見たんです。

イジメにでもあってるのかな?って思ったのですが、よく見るとそのノート、みんな別の人の物だったんです。
ノートに自分の名前とか学年とか書きますよね。
でも、そのノート、書かれている名前も学年もバラバラだったんです。

知っている人の名前まであって、状況に頭が追い付かず混乱してしまって。
立ちっぱなしで泣きじゃくる先輩に声をかけたんですよね。
「なんですかこれ」みたいな感じで。

そしたら、ぴたっと泣き声が止んだんです。
そして、いきなり顔を上げて私を見て、笑ったんです。
変な声を出しながら、にたぁ、って。

それで私は走って逃げました。
一心不乱に走りました。

後ろで声が遠ざかっていくのが分かりましたが、見るのが怖くて振り返ることもできずに家に駆けこみました。

泣きながらドタバタと帰ってきたせいで母が「どうしたの!?」とかなり驚いていたのですが、相手にする余裕すらなくて、自室へと逃げ込んで鍵をかけて布団にくるまりました。

母親がドアを叩いて呼んでいましたが、ただただ怖くて怖くて、布団の中で泣くことしかできませんでした。

それからいつの間にか眠っていたみたいで、気が付くと真っ暗になっていました。
時計を見ると、すでに深夜一時を過ぎていて、嫌な時に起きたと、呆然としながら思いました。

もしかして、あの先輩は夢だったのかもしれないと、そう考えていた矢先に、声が聞こえてきたんです。
ひっく、うぇ、ひっく、あう、うぇ、って。

嗚咽混じりの泣き声が段々と大きく、少しずつだけど確実に近づいて来る。
外にいる。
すぐそこまで来ている。

それに気付いた瞬間に心臓が寒くなって、体が震えました。
人って、本当に怖くなったときは震えるんですね。

気が動転して、どうしたらいいかわからなくて高校の友人に電話しました。
深夜に電話されて不機嫌そうでしたが、必死に状況を説明すると「ちょっと待ってて、兄に聞いてみる」と言われました。

電話を切られて静かになると、泣き声が余計に大きくなった気がして、怖くて何も考えられませんでした。

今度は友人から電話がかかってきて、ホッとしながら出ると、「見るな!外だけは絶対に見るな!」と友人の兄に叫ばれました。

それから「背が高くて制服を着ていたんだな、間違いないな!?」「逃げる時は振り返ってないよな!?」「外は絶対に見たら駄目だから。窓も見るな!」と矢継ぎ早に聞かれて、友人の兄はかなり焦っている様子。

どういうことなのか説明を求めても、「あとで教えてあげるから、今は何も聞くな。外だけは見るな!電話も本当はマズいから、悪いけど切るよ。朝まで我慢して!」と言われて電話を切られました。

まあ、それから布団にこもっていたら本当にあっけなく朝が来て、泣き声もいつのまにか消えていて、自室から出てリビングに行ったら家族が普通にご飯食べていた。
安心したのか怖かったのか、気が抜けて腰が抜けて、病院送りになりました。

その後は検査しても何もなかったし、あの先輩のことも夜のことも話さなかったのですぐ退院。

後になって友人の兄から聞いたんですけど、なんでもその先輩は「かとう先輩」っていうそうです。

異常な収集癖を持つヤバい男、という都市伝説を聞かされたんですが、まさか本当に会う人がいるとは思わなかったって言われて、逆にこっちが質問責めにあいました。

友人の兄が高校生だった頃から「先輩」だったそうなので、おそらくもう高校生と言えるような年齢ではないと思うのですが。
なぜあの人がうちの学校の制服姿だったのかも、なぜ泣いていたのかも、そもそもどうやって他人のノートを集めていたのかも、その姿以外は結局ほとんど全部不明のままです。

数年経っていつの間にか忘れていたんですけど、こんな体験を忘れてしまえるなんて、人って怖いですね。

これで話は終わりです
読んでくれた方、ありがとうございました。

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