祖父から聞いた話。
昭和50年頃のことらしい。
ちょうど今頃の早朝。
散歩がてらに近所を流れる川のほとりに、クルミを拾いにいったそうだ。
上流で川に落ちたクルミが流れ着いて沢山たまっている、淀みのような所があったらしい。
その淀みの近くまで来た時、祖父の耳に、「おぅい、おぅぅい・・・」と、呼びかけるような男の声が聞こえたそうだ。
辺りを見回しても祖父以外誰も見当たらない。
ひょっとして自分のことかと思い、「何だべぇ?」と大きな声であたりに呼ばわってみたが、それには応えず、相変わらず「おぅい、おぅぅぅい」と呼ぶような声だけが聞こえてきた。
ともかく祖父は、声のする方へと向かってみた。
釣り人がケガでもして身動きできなくているかもしれんと思ったのだそうだ。
そしてその後すぐどうもいつもの淀みのあたりっぽいと気がついた。
岸辺に生い茂った萱の藪の間の小道(祖父がクルミ拾いのために切り開いた、ほんのスキマのような物で周りや先は殆ど見えなかったらしい)を抜けて川岸に出た祖父は、それを見た。
淀みの水面に、クルミと一緒に人間がうつぶせに浮かんでおり、その背に、かなり大きなウシガエルが乗っていた。
そして、そのウシガエルが、人間の男のような声で、「おぅい、おぅぅい」と啼いていたと言う。
「な、なんじゃあ?!」
祖父が思わず声をあげたとたん、ウシガエルは水死体の背から跳ねて、流れの方へと泳ぎ去ってしまったそうだ。
その後、あわてて家に帰り、警察を呼んだりと大変だったそうだが、ウシガエルの呼び声については自分でも信じられず、警察には話さなかったということだ。
祖父がいうには、その前にも後にも、ウシガエルの鳴き声は幾度と無く聞いたが「べ~え、べ~え」とは鳴いても、人間のような「おぅい、おぅぅい」なんていう鳴き声はその時だけだったそうだ。