幼稚園の頃の話。
私の通ってた幼稚園には、裏庭に開けてはいけない門があった。
裏庭の向こうは普通の空き地で、別に鍵もかかってないし、先生から直接言われたわけでもないけれど、園児達の間には「あの門は開けちゃだめ」という不文律みたいなものがあった。
ところがある日、友達4人と裏庭で遊んでいるうちに、「門を開けてみよう」と誰かが言い出した。
みんな軽いノリで賛成してしまい、あっさりと門は開けられた。
その時、どこからともなく声が聴こえてきた。
最初はさおだけ屋だと思った。
男の声で、遠くのスピーカーから鳴っているような感じだったから。
しかしその言葉は、売り文句ではなかった。
『ひとぉぉぉ~、ひぃぃぃとぉぉぉぉ~』
意味はよく分からないけど、確かに『ひと』と繰り返している。
声は全員に聴こえたらしく、みんな真っ青になってその場を逃げ出した。
以来卒園まで、私たちが裏庭の門に近づくことはなかった。