三年前からオレの夢の中にある「モノ」が出てくるようになった。
舞台は決まって自宅の廊下だ。
背後に気配を感じる。
振り向くと、天井に頭が擦れそうな程の長身の女が立っている。
顔全体を覆うぼさぼさの髪。
その隙間からどろんと濁った右目だけが覗いていた。
オレを生気の全く感じられない目で見下ろしている。
口も一部分だけ伺えた。
恐らく、「へ」の字型に歪み半開きになっているであろうその口からは、シュルルルルという音と共に何とも言えない酷い臭いを漏らしていた。
何故かオレには不思議と恐怖感は無かった。
──奴の顔が笑うまでは。
奴の顔が変化すると同時に物凄い恐怖がオレを襲った。
口の端がつり上がっていくところまでは覚えている。
とにかく、オレは奴が笑った瞬間、跳ね起きるようにして夢から逃れたのだ。
そしてそれから一年が過ぎた。
前の年にあの夢を見た日と同じ日付の夜。
奴は再びオレの前に姿を現した。
前と全く一緒だ。
笑うことがわかっているにも関わらず、恐怖感が全くないところまで一緒だった。
唯一違っていた点は、「続き」があったということ。
奴は顔を歪ませニタリと笑うと、両手をゆっくりオレの肩へと伸ばす。
奴の指には爪がなかった。
正確に言うと、爪を剥がされて無くなっていた。
その手がオレの肩に触れるか触れないかという刹那オレは現実に戻っていた。
更に一年が経ち、「あの日」がやって来た。
オレは用心してその日は徹夜しようと思いコーヒーを飲んで完全に臨戦体勢だった。
しかし、午前1時を回った辺りから急激な眠気に襲われ、オレは眠りに落ちた。
やはり奴は現れた。
そして不気味に笑いながら俺の肩を思い切り掴んできた。
直後、オレは心臓が止まるかと思った。
奴の頭部がみるみるうちに膨れ上がっていったのだ。
そしてビキビキと音を立てながら口が裂け、がばっと大きく開いた。
酷い臭いだ。
オレの3倍くらいの大きさになった頭が、そのままゆっくり、ゆっくりと、オレの顔に迫ってきた。
喰われる。
そう思った。
しかし逃げようにも肩を物凄い力で抑えられている。
足が思うように動かない。
喰われる。
オレの頭が奴の口の中に入り、目の前が真っ赤になった。
奴の歯が喉に食い込む。
感触はあるが、痛みは無い。
しかし恐怖感は半端ではなかった。
歯が喉を破る寸前というところで目が覚めた。
背中にじっとりと汗をかいていた。
もうすぐ「あの日」になる。
果たして次も目が覚めるのだろうか。