もしかしたら不思議な能力が遅咲き開花したかも知れないという話。
俺はオカルト否定派だったが、ある時期を境に肯定するようになった。
数年前、会社の朝野球で試合があった時のこと。
フライを追って転んで、受け身失敗して思いっきり脳震盪を起こしてしまった。
あの瞬間はスローモーションで今でもはっきり覚えている。
『あーもっと後ろだ、下がらなきゃ、間に合うかな、落下地点はこのへんかな、いやもっと後ろだ』とか頭の中で考えてた。
目に映ってるのは青空なのに脳内フォルダが無造作に開けられて、メチャクチャな思考回路に陥るのなw
数十秒後に仲間が駆け寄ってきた頃には正常に戻ったけど、ちょっと頭が痛かったので大事をとってベンチで休むことにした。
その日はボーッと試合を眺めていたが今まで味わったことがないような、なんとも言えない気持ち良い状態で一日過ごしたことを覚えている。
翌日には痛みも完全に引き、普通に出社していた。
それから俺の身に不思議な現象が時々起こるようになった。
直径10~20cmぐらいの白い光の玉が見えるようになり、目で追うと消えるのだ。
平均すると十日に一回ぐらいの頻度だろうが一週間連続のときもあれば、丸三ヵ月も無かったりとかなりのバラツキがある。
しかもこの光、普通に覚醒して仕事や通勤している時だけでなく、眠りに落ちる直前の現実と夢の狭間とか、酔ってる時とか、俺のステータスと関係無しに見えるようになってしまった。
不気味なので一度総合病院で診てもらったが、脳に異常はないとのこと。
であればあの脳震盪をきっかけに「何か」が宿ったとしか考えられない。
ある日、不思議な夢を見た。
普通はどんなに時空間がブッ飛んだ夢でも最低限の色は着いているものだが、生まれて初めて真っ暗な、いや、「真っ黒な」夢を見た。
宇宙ビッグバン以前に相当するほど無の集合体を極めた「黒」。
それがXYZ全方向から俺を包み込むのだ。
そこでもがき苦しんでいると例の白い光の玉が現れ、「こっちにおいでよ」と俺の心に訴えかける。
そこで俺は目が覚めた。
寝ぼけ眼でなぜか真っ先にスマホを手に取っていた。
「なんで俺、スマホなんか見てるんだろwバカじゃねw」
そう思いながら二度寝しようか迷っていたら遠距離実家の母から着信があった。
なんせ片手にスマホ持ってる状態だったからコール一回で着信に出た。
発信した母もまさか俺がすぐに出るとは想定していなかったようで驚いていた。
でもその内容は、「隣の家のA子ちゃんが自殺した」というものだった。
その数か月後の長期連休、実家に帰省したついでに久々に隣家に赴いた。
墓参りをさせてほしいとお願いしたらA子のご両親もぜひにと言ってくれた。
A子ちゃんは同じ小中学に通った同学年で毎日一緒に通学した仲だ。
恋愛感情が無かったと言えば嘘になるし、俺にとっては特別な存在だった。
別々の高校に上がってからは疎遠になり、大学以後は互いに親元を離れた。
「あの子(A子)、たぶん俺君のこと好きだったみたいなのよ」
A子の母が言う通りそれを確信するようなフラグは幾つもあったが、お互い十代前半だったからそれ以上どうすることもできなかった。
だがA子の思いは尊重すると決めて、俺の胸の内に秘めることにした。
その後も例の白い光は不規則に現れた。
これが何を意味するのかは今でもよく分からない。
だが白単品ではなく黒とセットメニューになると「死」を予言する。
それを理解するのに時間はかからなかった。
ある金曜の夜、ちょっと遠距離の友人宅へ向かおうと車を走らせていた。
山の麓の国道を流していたら猛烈な勢いで一台の車が俺を抜いて行った。
その直後、空が暗いから一瞬で「黒い」に変わり、例の白い光がレーザーポインタのように前方の車を追った。
理由は分からんけど「これはアカン」と直感で確信したので、俺は30km/hぐらいまで速度を落とし、ハザード点けながらゆっくり走っていた。
すると案の定、先ほどの車がコーナーで大破していた。
既に他の車が数台停まっていたので通報は完了しただろうと判断し、俺はその場を離れたがあれはどう見ても即死レベルだった。
その頃、俺には付き合っている女性がいた。
仮にB子とする。
ちょっと美人で性格も頭も良く、俺の自慢の彼女だった。
そろそろプロポーズをと考えていた頃、B子の顔が「黒」に包まれるようになった。
しかしいくらなんでもこんなこと当人に言えるはずもない。
そんなこんなでデートをしていたある日、黒いB子に白い光が重なった。
思わず俺は「ヤバい!」と口走っていた。
「え?なにが?」とB子はキョトンとしていたが、直後にB子のスマホが鳴った。
相手はB子の母からで、「父ちゃんが死んだ」とのことだった。
その後B子から聞いた話によると、B子の父は総額8ケタの借金を抱えて50代で自殺。
その保証人がB子と母だった。
B子は涙目で結婚を迫るが冗談じゃないとお断りした。
結局B子は退職して母の元へ戻り、風の噂ではお風呂屋さんに沈められたとか。
・・・と、これをメモ帳で書いてる最中も「白」が何度も見えた。
もうやだ、こんなスキル。