山番の話。
里山の奥を歩いていると、横手の木立中に嫌な物を見つけてしまった。
首吊り死体だ。
結構な日数が経っているのか、すっかり蒼黒くなっている。
饐えた臭いが鼻を突いた。
その時、直ぐ横を煌めく群青が通り抜けた。
蝶だ。
大きい。
昆虫の名前には割と通じていたが、その蝶の名前は皆目見当も付かなかった。
蝶は次から次へと現れて、どんどんと死体に集っていく。
あっという間に死体は群青色に覆い隠されてしまった。
呆然と見ていると、蝶々が一斉に飛び立った。
鱗粉を避けて顔を庇う。
ゆっくりと顔を上げてみると、目の前にあった死体が失くなっていた。
あれだけきつかった死臭も、綺麗さっぱり消えている。
目の前には、ボロボロに傷んだロープが、ゆらりと風に揺れているだけだった。