先輩の話。
学生時代、仲間内でキャンプをおこなった時のこと。
シーズンから外れていたせいか、キャンプ場は彼らの貸切状態だった。
夜ともなればもう宴会状態で、酒の勢いもあって散々盛り上がっていたらしい。
「次は誰が芸をする番だー?」
呂律の回らない声で先輩が叫ぶと、背後の闇中から女性の声がした。
「次は私」
・・・今の誰だ?
一気に酔いが覚め、ぞくりと辺りを見回した。
次の瞬間、濡れた物がビタビタビタッと彼らの頭から降り注ぐ。
魚だった。
生きた魚が大量にキャンプ地に投げ込まれてきたのだ。
慌ててテントの中に逃げ込むと、魚の雨はすぐに止んだ。
恐る恐る外に顔を出すと、そこかしこで川魚がピチピチと跳ねている。
声はそれきり二度と聞こえなかったという。
魚は皆で可能な限り戴いたそうだ。
「誰かはわからないけどちゃんと礼も言っておいたよ。見事な芸でしたって。魚ありがとうって」