知り合いの話。
夏祭りが終わった夜、村外れの山裾を一人歩いていた。
行く手の方角から、ズルズルと何かが擦れるような音が聞こえてくる。
やがて月明かりの下、音の主が眼に入ってきた。
道を横切って塞いでいる、黒光りする長い生き物。
蛇のように見えた。
太さは彼が一抱えするほどもあったらしい。
尾の先の方は繁みの中に潜っていて、一体どれほどの体長なのかもわからない。
それが延々と山手の方に向かって這い進んでいる。
山肌を見やると、途中に穴が開いているようで、蛇はそこに這い込んでいく。
「この斜面、こんな太い蛇が潜れる穴なんてあったっけ?」
凝視していると穴の縁が見て取れるようになってきた。
小さく古びていたが、間違いなく鳥居だった。
「あ、これ、主様かも知れん」
確かここの主は大蛇だったと年寄りに聞いたことがある。
行き逢えば祟ることもあるという話だったので、慌てて踵を返すと別の道を辿って家に帰ることにした。
翌日、日が高くなってからもう一度そこに訪れ、例の鳥居を探ってみた。
鳥居の周りは何処にも穴など無く、とてもあの蛇が潜り込めるような隙間も無い。
「鳥居を抜けて通るってことは、神様の類なのかなぁ。でもあまり厳かな感じは受けなかったなぁ。何にせよ、祟られなくて良かったよ」
そう苦笑しながら、彼はこの話をしてくれた。