じゃあ、俺の神隠し話をちょっと。
小学校に上がるぐらいの頃、午前中に家からちょっと離れたとこにある菜園で兄貴と両親が草むしりなんかやっていたけど、俺は畑の近くにあった廃車状態のビートルの周りで遊んでいた。
ビートルは雑木林の端っこで腐っていて、ボンネットの先に笹の藪の中に踏み分けたような道があるのを見つけた。
俺はビートルを乗り越えてその道をたどっていった。
周りは雑木林のはずだったけど、なぜか霧がかった杉林になっている。
さらに奥に進んでいった。
杉林が途切れて、広場のようなところに出た。
霧が晴れると、藁葺き屋根の農家があった。
庭には杉かヒバの鉢植えがずらっと並んでいる。
人の家に入っちゃったと思って杉の陰に隠れたら、その農家からじいさんが出てきて鉢植えの世話をはじめた。
じいさんは俺に気が付かないようだったのでしばらく見てたら、今度は同じ年頃の女の子が出てきてじいさんに話し掛けてた。
その女の子はおかっぱで、茜色の着物を着ていた。
しばらく見ていたけど、また霧がかかってきた。
俺は戻らなきゃと思ってさっき来た道を引き返した。
2時間ぐらいずーっと歩いて、こんなに長かったっけと思いながら急いでいた。
杉林が途切れ、舗装した道が見えると、よかったー、と安堵したのを覚えている。
舗装した道に出ると、自治会館裏の墓場の道で、すぐ先に国道をはさんで酒屋があった。
酒屋のおばさんが国道を渡って俺を保護してくれた。
すぐに両親がきて、半日ぐらい行方不明になってたのを知った。
俺にはそんな長い時間が過ぎてるなんて思わなかったけど。