その昔、地元で大きな山火事があったのだそうだ。
彼も鎮火に借り出されていたが、火の勢いを止めることはできなかった。
その斜面から撤退して、態勢を立て直そうと決めた時。
真っ赤に染まった林の奥から、悲鳴を上げて近づいてくるものがいる。
逃げ遅れた動物がまだいたのか。
あわてて背後の林を振り返る彼の前に、奇妙な動物が飛び出してきた。
彼の膝ほどの体高で、全身が真っ黒い毛皮に覆われていた。
その身体は丸い大きな球状をしており、顔や手足は見当たらなかったという。
それはピューイピューイと甲高い鳴き声を上げながら、彼の横を勢いよく転がり落ち
麓の方へ消え去った。
後にも先にも、あんな奇妙な姿の動物など見たことがないという。
実家の祖母に話すと「コロビがまだいたんだねえ」と言われたそうだ。