母は真実を語らない

小学校4年くらいの頃の出来事です。

その日、父は出張、母は近所のお通夜だったか何かに出かけていて、高校生の姉と二人きりで留守番していました。
うちのリビングは玄関に近い側とキッチンに近い側と二つドアがあり、その二つのドアはコの字型の廊下でつながっています。

姉が入浴中、リビングで一人テレビを観ていると、急に玄関側のドアがノックされました。
私は母が帰ってきたと思い、嬉々としてドアを開けましたが誰も居ません。

気のせいかと思っていると、一分程してから、今度はキッチン側のドアがノックされました。
開けても、やっぱり誰も居ません。
姉がふざけてるのかと思い、ドアの裏や廊下の先を確認しましたが、人の姿はありません。
それどころか、お風呂の方から確実に水音がしています。

さすがにちょっと怖くなり、クッションに埋もれて必死にテレビに集中しました。
すると、数分後再び玄関側のドアがノックされました・・・。

私はもう怖くて怖くて、ドアを開ける事ができませんでした。
その場にじっとしていると、またもや一分程して、今度はキッチン側のドアがノックされました。

泣きそうになるのを堪えていると、次は一分も空けずに玄関側のドアがノック!
そして、一人の人間がやっているのだったらありえ無い間隔で、10秒も挟まずにキッチン側のドアがノックされたのです!
その直後、『ドンドン・・・ドンドン・・・ドンドン』と、玄関、キッチン、玄関・・・と数秒毎にノックの応酬!

子どもだった私はもうただパニックおこして泣き喚きました。

私の泣き声に反応したかのようにノックが止み、私は一目散にリビングを出て姉のいる風呂へと走りました。

姉はシャンプー中で泡だらけ。
姉のイタズラである可能性は確実に消えました。

裸の姉は、泣きじゃくる私に非情にも「何?やだ、出てってよ~」と冷たい言葉を言い放ちました。
で、リビングに戻るのも怖かったので脱衣所でガタガタ震えていると、車の音が聞こえてきました。

今度こそ、母親が帰ってきたのです。
私は必死に玄関まで走り、母の胸に飛び込んで一部始終を泣きながら語りました。

すると・・・この時の母の何とも言えない表情は今も忘れられないんですが、「それはね、お母さんがあんたを驚かそうとしてイタズラしたの。ごめんね。」

そう、なぜかやたらと優しい口調で母は言いました。

子ども心に「嘘だ!お母さん何か隠してる!」と感じれる、張り詰めた空気が漂っていました・・・。

母は何か知っていたのでしょうか?
十五年程経った今勇気を出して聞いてみたい気もするのですが・・・。

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