数年前のこと。
俺はスーパーでの買い物を終え、近くのあまり人の来ない小さな公園で一服していた。
ベンチに腰掛けぼうっとしていると、公園の隅に設置されているトイレから坊主頭のいかついおっさんがでてきた。
おっさんはまっすぐこっちに向かってくる。
絡まられたら怖いなぁと思ったが、おっさんは俺の目の前まで来ると「火ぃ貸してくれませんか?」と、笑顔でそう言った。
見た目よりはいい人そうだなと思いおっさんのくわえてるタバコに火を点けてあげた。
「ありがとう」
おっさんは笑顔で言うとタバコをくわえたままトイレの中にまた消えていった。
その直後、「フゥーーッ!!」と、トイレからマイケルジャクソンのような甲高い声が聴こえてきた。
「フゥーーッ!フゥーーッ!」
かなりの大声で、周囲が静かなだけに余計に響く。
なんだか怖い。
声の主はさっきのおっさんだろう・・・。
ついさっき笑顔でお礼を言ってた感じのいいおっさんがトイレで奇声を発している。
「フゥーーッ!フゥーーッ!」
とても怖いし気味が悪い。
それでもなんだか気になったので俺は様子を見にトイレに向かった。
「フゥーーッ!フゥーーッ!」
入口前に立つと中からの奇声はより一層大きく聞こえる。
おっさん何やってんだ、ヤク中か?だったらヤバイかな・・・とか思いながら一歩、足を踏み入れた。
「フゥーーッ!フゥーーッ!フ」
突然声が止んだ。
ブツッと電源を落としたみたいな途切れ方だった。
恐る恐る中に足を進める。
トイレは小便器が3つに個室が2つ、しかし人影がない。
個室もドアが開きっぱなしで中には誰もいない。
窓は少し開いてるが小さく高い位置にあるためここから出たとは考えにくい。
おっさんは消えてしまった・・・。
直前まで奇声が聞こえていたのに・・・。
女子トイレかとも思ったがさすがに入って確かめる勇気はなかった。
「うわぁ気持ち悪いなぁ怖いなぁ、」などと呟きながら一応用を足して手を洗う。
幸い鏡に何かが映ることはなかったので少し安心したがトイレから一歩出たその瞬間、中から「フゥーーッ!フゥーーッ!フゥーーッ!」と聞こえた。
心臓飛び出すくらい驚いて走って逃げた。
俺が唯一体験した怖い話。