オレの嫁の話。
オレの嫁は、父親が宮司だから小さい頃から神社が遊び場だった。
でも霊感がある訳じゃない、普通の子どもだったそうだ。
で、嫁が小学生4年の時、学校に行くために家を出たら、自分の前を、スーツを着た男が歩いてたんだそうだ、中年くらいの。
でも別に話しかける用もないから、追い越して行こうとしたら、「ここからだよ」と、その男が嫁に向かってそう言った。
嫁が思わず振り向いて男を見ると男はニコニコしていて、嫁とは違う方へ歩いて行った。
全然知らない人だったって。
以来、嫁は変な夢を見るようになったんだって。
夢の中で嫁は、”自分と違う人間に乗り移ってる”みたいになってる、と。
話を聞くと、ゲームの「サイレン」の視界ジャックみたいな感じだ。
違う人間の視界を見てるんだと。
見てる視界で何が起きてるかと言えば、車を運転してて、1人の女の人を見つけて尾行し、その女の人が1人でいる時を狙って、捕まえて首を絞めて殺す。
そして車のトランクにしまう・・・っていう感じに、一連のことを見てるんだそうだ。
ただ、それが誰の視界かは分からなかったし、当時は子どもだった嫁は、なんて怖い夢を見たんだと震えるだけだった。
でも、夢の内容がどんどん続いていくそうだ。
車のトランクに入れた女の死体を埋めている。(女は全裸)
車に乗って帰る。(着いた場所も家も、嫁は全然見たことがない)
風呂、食事をして寝る。
また車に乗って女を物色。
女を捕まえて首を絞める。(いつも首を絞めてるそうだ)
大体、この繰り返し・・・。
怖くなった嫁は、両親に全部を話したそうだ。
そうしたら、母親の方は「大丈夫、大丈夫」となだめるだけだったけど、宮司をしてる父親の方は「なにかが嫁の身に起こってるのかも」と思って、嫁にお神酒を飲ませて、祈祷して、嫁にお札を持たせて、その日は嫁と一緒に寝てくれた。
でも、その日も嫁は夢をみたけど、いつもと違ってたらしい。
視界はどうやら自分のものなんだけど、真っ暗で、とにかく喉が渇く。
どうすることもできないけど目を覚ますことも出来なかったらしい。
けど、何とか朝になって目を覚ました時、父親は大慌てだったそうだ。
朝食を作ってた嫁の母親のところに駆け寄って、慌てて母親を捕まえた。
その時は何が起きたのか、嫁には全然分からなかったそうだけど、あとになって父親が話してくれたところによると、嫁と一緒に眠った夜、父親も夢を見たそうだ。
父親が見たのは、女を殺してる最中の男の近くに、ボーっと突っ立ってる感じだったそうで、男も女も、父親の存在には気づいていないらしい。
でも父親は、女を殺している男の顔も、男に殺されている女の顔もハッキリ見たそうだ。
どちらも、嫁の母親の顔をしてたって。
どうやら家族全体に何かが起きているようだと感じた父親は、父親の師匠にあたる人に宮司さんに助けを求めた。
師匠はすぐに、神社の敷地全体を酒と塩と鏡で清めて結界を張り直し、家族には、これから三日三晩、家から出ないように告げ、「自分が泊り込むから大丈夫」と言ったそうだ。
それ以来、嫁が夢を見ることはなくなった。
あのスーツの男を見かけることもなくなったそうだし、母親はずっと何が起きたのか分からないでいたようだけど異常はない。
父親も何も言わなかった。
いまだに嫁は、あの男が誰だったのか分からないそうだが、嫁が言うには「行きずりの悪魔」だそうだ。
それから数年して嫁が思い出した事があるって言ってきて、”あのスーツの男”と、助けに来てくれた父のお師匠さんの声が似てるって、子どもの頃に思ったらしいです。
それで気になって嫁の父に電話でお師匠さんのことを聞いたみたら、大学の講義(神道の講義がある)でも教えてた、ちゃんとした人だから、”そんな”疑いはやめなさいって怒られました・・・。