死なねえのかよ

カテゴリー「不思議体験」

よくあるお話だが、友人から聞いた話を。

この話を教えてくれた友人の友人、彼の実家は近畿地方のとある山間部。
働いているのは大坂の街中で、ここ数年は帰省していなかったので、お盆休みを利用して久々に田舎へ帰る事にした。
久々の実家、地元に帰った彼は幼なじみの友人に会うために、隣の町まで原付きを飛ばして行くと電話で伝えた。
数年ぶりに会う友達からの電話で友人も大喜び、すぐに来いと言ってきた。

昼前に原付きに乗って、懐かしい道を走っていけば30分ほどの距離。
走り始めて国道に出る手前で、ふと見上げると、新設された国道が山の中に向かって続き、標識が隣町まで続くと示していた。

「これならいつもより早く行ける。こないだお袋が言ってたのはこれかぁ。」

そう思ったものの、懐かしい道を走る方を選んだ彼は、そのまま国道へ。

「でも、まだ建設中だって言ってたけど、もう通じてるじゃん。」

隣町に着いて友人に会い、昔話に花をさかせているうちに夕刻になった。

「そろそろ帰るは」と言う彼に「今夜は泊まっていけや」と引き止める友人。
「明日は帰るから、正月にでも帰ってくるから、その時は泊めてや」と、言い残すと帰路についた。

山間の日暮れは夏でも早く、すぐに夕闇は漆黒の闇へと変っていった。
家路を急ぐ彼の目に先ほどの新設された国道への入り口が目に入った。

これなら早いだろうし、もう出来てるようだからこっちで帰るか。
彼はバイクを傾けて進路を山に向けて走り出した。
それがどこに続くのかも知らず・・・。

舗装したての路面は、田舎道とは違い滑らかにタイヤを運んでいく。
闇の中でも勝手の知った地元だから恐い事もなく軽快に走っていけた。
山の中腹あたりに差し掛かった時、彼の耳に何かエンジン音とも路面の音とも違う、聞き慣れない音が流れてきている事に気づいた。

なんだ?何の音?

聞き流していたのだが、それが徐々に大きくなり、そしてはっきりと聞こえるようになる。

「フフフ・・・ウフフフフ・・・アハハ・・・フフフ・・・」

女の笑い声?

「なんだ?!こりゃ!?」

必死になってその声を振り切るようにアクセルを回す。
しかしその声は、とうとうバイクの真後ろで聞こえるようになった。

「やばいかも・・・駄目だ!駄目だ!後ろに乗ってるのか!?」

もう振り返る事もミラーを見る事もできない。
ただライトの指す路面だけを見つめながら走りつづける彼。

「降りろ!降りろ!」

心だけでなく声を出して叫ぶ。
しかし、女の声はより近くなり、とうとう息がかかるほどに。

「助けて!!!」

その瞬間、何かに乗り上げたようにバイクが大きく弾む。

ガシャン、ギャギャギャ!

バイクは転倒して滑っていく。
彼も道に投げ出され丸太のように路面を転がっていく。

「あいたたた・・・・」

幸いにもそれほど外傷は無いようだ。
ゆっくり立ち上がり、バイクに向かうと、バイクも幸いに傷と多少の破損程度でまだ動く。
しかし、彼にはそれよりも大きな恐怖がその先に待っていた。

まだライトの点いたままのバイクの所までフラフラと歩いていくと、そこにはまだ建設中でその先にはただの断崖になってるだけの道路が照らし出されていた。

「うわぁ!もう少しでこの下に・・・・」

震えるような恐怖に突き落とされた彼を更なる恐怖が襲った。
崖下を見詰める彼のすぐ横、息が耳にかかるほどの距離で、さっきの笑い声の女の声で「死なねえのかよ」と・・・。

正に失禁をしそうな恐怖で、彼はバイクにまたがると、来た道を戻っていった。
そこには、登ってくる時には全く無かったと思われた、通行禁止のバリケードと看板。
そこを縫うように走り、半狂乱で実家にたどり着いた彼。
事情を家族に話し、バイクの修理を頼んだ。

傷の手当てをした母が「だからあそこはまだ工事中やて言うたろ。お前が3人目になるとこやったで」と、その建設中の国道ではすでに2人が事故で亡くなっていたらしい。

途切れた道は、放置すると黄泉(よみ)に続くと言われていると聞く。

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