父は何かを知っていた

カテゴリー「不思議体験」

子供の頃の話。
30年以上前のことです。

私が生まれ育ったところは、武蔵野の面影を残す森や林が多いところでした。
夏になればカブトムシやクワガタがたくさん捕れ、早朝や夕方に友達と一緒に森に入ったものです。

あれは小学校の高学年になった頃だったでしょうか。
いつものようにカブトムシを捕りに行こうと集まった私たちは、今まで入ったことのない深い森に行ってみようということになりました。
その森の入り口は、線路のすぐそばでした。

都心へと続くこの路線は両側が森となり、運転手の目を休ませるのだそうです。
森の入り口で自転車を乗り捨てた私たちは、歩いて森に入りました。
カブトムシが目的ではありましたが、初めて入る深い森ということもあり、何か冒険にでも行くような気持ちだったのを覚えています。

時刻は夕方の4時頃だったでしょうか。
私たちは森の中へと続く道を進むと、カブトムシがいそうな木を見つけては道から外れ、次第に森の奥深くへと入っていきました。

どれくらい経ったでしょうか?
私たちはいつしか、電車の音が聞こえなくなっていることに気づき、不安になった誰かが「帰ろう」と言いました。
異論はなく、私たちは帰ることに。

しかし、まわりを見渡しても、「道」はありません。
カブトムシに夢中になっていた私たちは、いつの間にか道から遠く外れていたのです。
あたりはすでに薄暗く、うっすらと霧がかかっていました。

「道」へ出るにはどうすればいいのか・・・?
あたりはしーんとして、物音ひとつ聞こえません。
私たちは道だと思う方向へずっと歩いていきましたが、一向に道に出ることはありませんでした。
やがて一人が突然座り込み、泣きべそをかきはじめました。
その不安な気持ちは一瞬で全員へ伝わりました。
私は泣きたいのをぐっとこらえ、森を見上げました。

おかしい、何かが違う。
私はそう思いました。
この森に入るのは初めてだったけど、近所の森には何度も入っているし、迷ったことも一度や二度ではありません。
しかしそのときは、その森に何か得体の知れない違和感を感じました。

何がおかしいかって・・・夏の夕方なのにヒグラシが鳴いていなかったのです。
蝉の声が聞こえない夏の森・・・。
私は迷ったこととは別の恐怖を感じました。

その時です!
森の奥から何か物音が聞こえたような気がしました。
泣いている友達に「しっ、だまって!」と言うと、全員で耳を澄ませました。
すると、確かに音が聞こえます。

ちん、どん、じゃーん、ちん、どん、じゃーん、ちん・・・。

それは、鐘や太鼓、どらの音でした。

「わーー、出た!おばけだー」

一人が叫び全員がパニックになりました。
しかし、ひとしきり騒ぎが収まって冷静になった私たちは、その音の方に行ってみようということになりました。
あたりはいよいよ暗くなり、足下もおぼつかなくなった私たちは、音の方向に必死に歩いていきました。

ちん、どん、じゃーん、ちん、どん・・・。

音は遠くに聞こえたかと思うと、急に近くで聞こえることもありました。
私たちは恐怖も忘れ、音の正体を探ることも忘れ、まるでその音に導かれるように歩きました。

どれくらい歩いたでしょうか。
疲れ果てた私たちは前方に電車の音を聞きました。
それに続いて、暗闇を切り裂く電車のヘッドライトを見たのです。
そう、私たちは入り口近くへと戻っていたのでした。
もうすっかり夜になっていました。
あの鐘の音は、もう聞こえませんでした。

家へ帰った私は両親に怒られました。

両親:「こんなに暗くなるまで、どこへ行ってたんだ!」

私:「森の中で道に迷って、そしたら鐘や太鼓の音が聞こえてきて・・・。」

私は泣きながら言いました。

すると父が急に黙り、「そうか・・・」と。
そうして私の頭を撫でると、「よかったな」と・・・父は何かを知ってるようでしたが、多くを語ろうとしませんでした。

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