彼は転校しました

カテゴリー「不思議体験」

昔の体験談をひとつ。

高校の頃、授業の一環で地元の山に登山したことがあった。
標高もたいしたことなく、易しい山だったので、みんな思い気軽に登山してたよ。

俺は知り合い二人と一緒にゆっくりと登ってた。
卒業後の話なんかしながらね。
その山、登山道が細く曲がりくねった、なんていうか非常階段みたいな感じで、はるか上のほうまで見える道だったんだ。
上のほうでは同じクラスの奴が騒ぎながら走ってた。
で、危ないなぁなんて思ってたら、案の定そいつは足を踏み外して滑り落ちた!
土砂をどんどん転がり落ちてくるそいつを見て、なんとか助けようとした俺はそいつの滑落してくるであろう位置に動いた。
とはいえ、まだ上のほうなので大声で「誰かそいつを止めろ!」みたいなことを叫んだよ。

ところが、俺が叫んでも誰も反応しない。
それどころか、みんな微動だにしない。
さすがに怖くなって知り合いに「上の奴ら、聞こえてないみたいやで」と言いつつ振り向いたら、驚いた。
そいつ、白目を剥いたまま舌をチロチロ動かしてた。
慌てて他の奴らを見ると、知り合い同様白目を剥いて舌をチロチロやってる。
気がつけばあんなにたくさん人がいた登山道なのに、風で木々が揺れる音しかしない。
恐ろしいほど静かだった。

俺はパニックを起こして、声の限り叫んだ「誰か!誰かあいつを助けるぞ!・・・頼む返事してくれよ!」って。
それでも誰も反応しない。
気がつけば、落ちてくる奴も無音で落ちてきてた。
恥ずかしい話だが、どうも堪えきれなくなって俺は泣き叫んだ。
それこそ赤ちゃんみたいに・・・。

すると突然ヴワーンって、なんか銅鑼?みたいな音が鳴り出した。
それと同時にその場にいた全員がこちらを向いた。
舌をチロチロやりながらね。
で、だんだん俺のほうに近寄ってくる。

「おまえら、なんの真似ね!」

そう叫んで手を振り回して振り放すも、構わず近づいてくるクラスメイト。
もう駄目かな・・・なんて思ってたら、滑落してた奴がとうとう俺のところまで落ちてきて「ケン!大丈夫か!」って叫んで俺の手を掴んだ。
そこで、どうにも限界だった俺は気絶した。

気がついたらベッドの上だった。
目が覚めた俺を見て安堵を隠せない担任。
話を聞くと、どうやら俺は滑落して意識を失ってたらしい。
そんな俺を、例の滑落した(と俺が思ってた)奴が引っ張りあげてくれたらしいく、そいつは窓のそばに座ってたんで、ひとまずお礼を言った。
するとそいつは「なんじゃったんじゃ・・・アレ・・・」と言ったきり押し黙った。

二日後、目だった問題もなかった俺はなんとか退院して登校した。
すると、例の助けてくれた奴は欠席だった。
あの不思議な現象を、あいつも見たのだろうかと思った俺は、そいつが登校してくるのを待った。
一日、二日、一週間。
とうとう一ヶ月経ってもそいつは来なかった。

一ヶ月たった日、HRで担任が「彼は転校しました」と短く告げた。
その日、担任からそいつの住所を聞いて家に行ってみたけど、すでに引っ越していた。
結局あれはなんだったのか、あいつは今どうしてるのかがすごく気になる。

今から15年ほど昔の話です。

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