橋の下でキャンプしたわけ。
いや、ホームレスみたいな感じでなくて、田舎の山あいの、綺麗な川に掛かる橋ね。大きくて趣ある橋だったな。
偶に登山客が通るけど、死角になってこちらは見えない良い場所で、思い出深い一夜になるはずだった。
いや、なったわ。
日が落ちた頃に、橋の上で人の気配と、口笛が聞こえてきた。
それが面白くて、地下道とかで聞こえるぴーん、ぽーん、っていう音をずっと真似してるのね。
俺はこちらの見えないことをいい事に、やまびこみたいに返答した。
ただし、大音量で。
得意なんだ、口笛。
すると向こうはビックリしたのか、そのまま通り過ぎて行ったようだった。
俺は何故かハマってしまい、暫く大音量で繰り返した。角瓶ももう空いてたしね。
そのままテントで寝て、真夜中。
何時間か経ったと思う。近くで葦を掻き分ける気配がして、目が覚めた。
すぐ、物凄い金切り声で「ぴいいいいいん!!ぽおおおおおおん!!!」って。
人の恨みは買うもんじゃないね。
いや、人じゃないかもしれないけど。
秩父の話。