練馬にある高層マンション群で10年くらい前にあった出来事。
ある学生が夜遊びをして深夜に家に帰ってきた。
彼の自宅は上の方の階。
エレベーターに乗った。
そのマンションのエレベーターは防犯のために窓ガラスの付いているタイプ。
各階のエレベーターホールが見える。
学生が何気なく窓から外を眺めていると、2階のエレベーターホールのはじっこに、子供が二人立っているのが目に入った。
兄弟のような雰囲気で背の高い子と小さい子の二人。
手を繋いでいる。
そんな子供の兄弟が薄暗いエレベーターホールの端に立っているのだ。
こんな時間に何をしているのだろう?
疑問に持つ間もなく、エレベーターは2階を通りすぎる。
2階の天井と3階の床で一瞬、視界が途切れて、3階のエレベーターホールが見えはじめる。
あっ。
思わず声が上がった。
さっき2階にいたはずの兄弟がここにもいるのだ。
さっきと同じように手を繋いでエレベーターホールのほの暗い隅に。
いくらなんでも子供二人がエレベーターを追い越して階段を登ってこれるわけがない。
さっきと同じ子供なのか。
確かめる間もなく、エレベーターは3階を通りすぎる。
3階の天井と4階の床で一瞬、視界が途切れて、5階のエレベーターホールが見えはじめる。
いる。
やはり子供の兄弟が5階のエレベーターホールにもいるのだ。
しかもさっきよりもエレベーターに近い位置にいる。
ホールが薄暗い上に、下を向いていてその表情は見えない。
たたぼんやり立っているのだ。
まさか近づいてくるのか?
嫌な予感は6階を通過する時に現実になった。
5階よりも少しエレベーターに近づくように兄弟が立っている。
7階、8階、9階と子供たちは少しずつエレベーターに近づいてくる。
すでに学生はエレベーターの小窓から避けるように、エレベーターの奥へと後ずさりをしていた。
エレベーターの止まるのは14階。
それまでに消えてくれ!
だが、子供たちは確実にエレベーターに近づいてくる。
12階。
子供たちはもう扉の前に立っていた。
俯いたまま。
13階。
悲鳴を上げた。
子供の兄弟が小窓にぴったりを顔をくっつけて中を覗き込んでいるのだ。
じっとこちらをその精気のない目が追いかけてくる。
エレベーターの上昇にあわせて。
学生は思わず気絶した。
気がつくとエレベーターは14階に止まっていて、倒れた彼の身体が挟まって自動扉が開閉していた。
それ以来、彼は夜遊びをしなくなった。