頭から高温の天ぷら油を浴びて

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

この間、中学時代の同級生から聞かされた話。

そいつの弟はちょっと前に自殺してたんだよね。
なんか、バイトしていた天丼屋をクビになって、頭から高温の天ぷら油を浴びて大やけどした挙句死んだとかで。

世間話程度で小耳に挟んだ話では、そいつの母親の作る天ぷらがとてもマズイらしく、本人は全然仕事はできなかったんだけど、そこそこ美味い天ぷらの味をしっていたとかで母親の作る天ぷらが許せなかったんだとか・・・。

その日の晩飯は天ぷらだった。
それを邪魔するために頭から油をかぶった、と。

最近になって、そいつの兄貴(つまり俺の同級生)から携帯で連絡があった。
つっても、もう10年近く交流がなかったんだけど。

俺の職場が宅配便の会社で、そいつの家に宅配に行ったのがきっかけで連絡先を教えた感じ。
奴いわく「久しぶりに同級生のやつと飲みたい」と。
しかし、俺の地元に住んでる同級生なんて殆ど居ない。(高齢化が進むベッドタウンなので同級生の殆どは、東京ないし地方に散らばってしまったんだとか)
だから特に俺でなければいけないってわけではなく、正直誰でも良かったらしい。

俺:「あーあ。こいつ宗教にハマったな。弟があんな死に方したし、何かの勧誘する気か?」とか思いつつ別に断る理由もないし、変な宗教勧誘のたぐいだったらドタキャンして帰ることにして指定された待ち合わせ場所に行った。

予想に反して、待ち合わせ場所にはそいつが一人で待っていた。
とりあえず落ち合うことにし、挨拶もそこそこに、近くにあった居酒屋に入ることにした。

二人共ビールを注文し、お通しをつまみにしばしば会話。
とはいっても、特に仲が良かったわけでもないし、途切れがちな会話だった。
そしてしばし無言になってビールを煽っていた。
正直俺としては、そいつの弟の話を避けたかっただけなんだと思う。

注文していたシーザーサラダが到着したとき、それまで黙り込んでいたそいつが、急に話を振ってきた。

「・・・実はK(弟)の話なんだけどさ。」

俺:「Kって、前にあんな死に方したお前の弟のことだろ?お前、いいのかよ」

「いや、そろそろ誰でもいいから、本当のことを話したくなったんだ・・・」

そいつの話をかいつまんで話しとこんな感じ。

俺(同級生)の母親って、結婚するまでろくすっぽ料理が出来なかった人物らしく、結婚するのを期に旦那の父親(つまりそいつの父型の祖母)から適当に料理を教わっていた。
だがそれでも料理が面倒くさかったらしく、ところどころ工程を省いて、適当な料理を毎日作っていた。
そのため俺もKも好き嫌いが激しくなり、それでも好き嫌いはよくないと無理強いされて食わされていた。
特に揚げ物は、下ごしらえもせず、衣をつける基本も出来ず、しかも低音で長時間挙げてしまうのが「俺の家」では常識で、俺もKも揚げ物全般がダメになってしまった。

ところが何故か、弟は天ぷら職人の道を選ぶようになったんだとか。
理由は、ホカ弁に入ってるチクワの唐揚げを食って感動したかららしい。
そして、そいつの母方の親戚が営んでいる、フランチャイズ系の天丼屋でバイトをする事にしたんだと。

やがてそこの店主が亡くなり、天丼屋も閉店するという事になったんだけど、そこで何を血迷ったのか地元でそこそこ有名な天ぷら専門店で修行することを選んだらしい。

俺:「え、聞いてた話と全然違うぞ?」

同級生「:一応話は最後まで聞け」

厳しいながらも、「美味い天ぷら」が食えるというモチベーションを元に修行を頑張ったんだそうな。
そしてそれは、「美味い天ぷらが食いたい」という目標から、「店を持ちたい」という夢に変わっていった。
ところがその天ぷら屋、去年の3月で閉店してしまった。
311の地震で店舗が壊滅的になってしまったかららしい。(意外と地元にはそういうところが多かったりする)

「まだ修行は続けたい」って気持ちはあったものの、Kはここで一度立ち止まることを選んだ。
貯金は結構あるので、旅でもしてもっと美味いものを探してみたい。
とりあえずその前に、料理下手な俺の親に、俺の修行の成果を見せてやりたいって思うようになったんだそうな。

俺(同級生)はその日休みで、本屋から帰ってきたら台所にKがいた。
エビやイカとか魚とか、野菜とかの下ごしらえをしていた。

俺(同級生):「おうK。お前天ぷら作ってくれるのか。」

K:「ああ。晩飯に振る舞ってやるよ。楽しみにしておいてよ。」

俺(同級生):「火事にだけは気をつけろよ。」

そんな会話だけして、俺(同級生)は二階に上がっていった。
それが俺とKの交わした、最後の会話だった。

二階に上がって買ってきたマンガを読んでいたら、暫くして母親が帰ってきた音がした。
その途端、母親とKが何やら揉め始めた。

母:「ちょ、ちょっと!!危ないからやめてよ!揚げ物なら私がやるからさ!!」

K:「うっせえよ。俺がやってんだから邪魔すんなよ!」

母:「だ・か・ら、危ないって!やめて!あたしがや・る・か・ら・!」

バタンバタンといった物音と、母親の怒鳴り声、そしてそれを追い払おうとするKの怒鳴り声が聞こえた。

そんな揉めてる音が断続的に10分ほど続いたその時だった。

K:「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

俺:「・・・だから、何?」

同級生:「これは推測だけど・・・Kが死んだのは自殺じゃなくて、多分うちの母ちゃんが殺したんだと思う。」

俺:「なんでよ・・・」

同級生:「うちの母ちゃん、『天ぷらなんて、素人が家庭用のコンロでまともに作れるもんじゃない』って豪語してたから。多分Kが、母ちゃんと同じ環境で、きちんと天ぷら作れることを照明されるのが、怖かったんだと思う。」

結局その件は、Kの自殺ってことで確定はしている。
ただ、その話を同級生から聞かされた時、正直聞かなきゃよかったとも思った。

最近その母親は、ろくに家事をすることもなく、Kの遺品のDSで、延々と脳トレばっかりやっている毎日なんだそうな。
その母親とは今でもたまに顔を合わせることがある。

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