ある変死事件

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

もう10年以上前、飲み屋でバイトしてた時の話。

その店にはAさんという新聞記者の常連がいた。
記者って忙しいらしいが、店は深夜までやってるバーなのでちょいちょい来てくれていた。
明るくて話題も豊富で、ほかの常連やスタッフ達の間で人気者だった。

ある時から、Bさんという別の年配の客が店に通うようになった。
BさんはAさんの上司を名乗り、Aさんのキープしていたボトルを初回から出させて飲んでいた。(Aさんに確認したら、確かに新任の上司だということだった)

Bさんが頼むのはいつもAさんのボトルだけ。
他に注文しない。
しかも飲むペースはAさんより速い。

BさんはAさんと一緒に店に来たことは一度もなかった。
いつもボトルが底をつくギリギリまで飲み、次にAさんが新しいボトルを入れた頃合いにまた店に来る、というパターンだった。
多分トータルで飲んだ量は、Bさんのが多かったはず。

このBさんは困った客で、他のバイトの女の子を口説く、尻とか胸を触る。
話題といえば、自分が現役の記者時代どれだけ凄かったか、何本特ダネを書いたか、O阪の警察幹部とどれだけツーカーか、という自分ageの自慢話ばかり。

それを絡み酒でスタッフにも他の常連客にも無理やり聞かせるから、正直、スタッフにも常連にも嫌われていた。
お触りの一件もあって、店長はBさんを出禁にすることも考えたらしいが、Aさんの顔もあるので止めたみたいだった。

当時、地元ではある変死事件が話題だった。
県警が自殺と発表したことに、死んだ男の人の妹や両親が異議を申し立て、独自の調査で「暴走族による暴行殺人」だと主張し、再捜査を申し入れていた。
テレビの全国ネットが大きく取り上げたりしてたので、色々話題になった。
Aさんもその事件を追ってるらしかった。
詳しい話はしなかったけど。

ところがある日、Aさんが泥酔してヘロヘロで店に来た。
しかも泣いて。
べろんべろんのAさんが言うには、
・支社長(Bさん)が県警幹部と県警に呼び出され談合した。
・帰ってきた支社長が「以後この事件は自殺と断定する。理由は聞くな」と命令した。
・話し合いの内容は教えてくれないが、担当を外された。
・支社の全員が「記者を続けたかったら、二度と他殺などというな」と支社長に脅された。
・自分はどっちにしろ記者じゃなくされるだろう。
・死んだ男の人の家族と接触することすら禁止された。
・真相究明に一生懸命だったご家族に申し訳がない、悔しい。
って、いい年した大の男がガキみたいにおいおい泣いていた。

その後4ヶ月程して、Aさんは転勤していった。
詳しくは教えてくれなかったが、異動先は本社の資料整理係(?)で、はっきりいって窓際部署に飛ばされたらしい。

Aさんが出ていった後も、Bさんはしばらく店に来た。
酒癖とセクハラと自慢話は相変わらずだったが、一度Aさんのことを訊いてみた。

Bさんによると、
・Aは本当にダメ記者、俺が若い頃ならクビになるレベル。
・危うくあいつのせいで誤報になる所を俺がフォローしてやった。
・俺はここの県警ともツーカーなので、今後は若い記者にバンバン特ダネ書かせる。
そのBさんも、Aさんの最後のボトルが空になったら来なくなった。

一体どっち言うことがが本当なのか判らん。
でもイヤな感じだけは残った。
Aさんの泣き顔と、Bさんのドヤ顔が対称的だからよけいに。
あの後、事件のニュースもピタッと出なくなったし、マスコミ不信になった。

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