十数年前の話。
玄関のドアがペットの猫のために、いつも少しだけ開いている家があった。
住人は若い母と小さな男の子の二人暮らし。
この母親は、家の手入れも子供の世話もおざなりで、まるで母子家庭の偏見そのままで出来ているようだった。
当然、猫の扱いも適当で、雌なのに避妊もしなかった。
外への出入りが自由なもんだから、季節のたびにおなかが膨れ、だんだん数が増えた。
気がつけば、集まればぞっとするほどの数だった。
田舎でおおらかな時代といっても、さすがに抗議がはいる。
数週間後、猫はいつの間にかいなくなってたけど、どうやって処分したと思う?
飼い主をさがした?
どこかへ捨てた?
保健所につれてった?
後者なら、後者なら、まだ救いがあったが、実は・・・母親は、小学生のわが子に、猫を殺させていた。
男の子の様子をおかしくおもった学校側が家庭訪問して発覚。
その後、男の子は母親と引き離されて、遠くの施設へ行った。
後で事情を詳しく聞いた。
この母親は前はまともだったらしいが、旦那さんがひき逃げにあってから心を病んだそうだ。
近所の人もそれを知ってたから、何もいわなかったんだって。
俺は祖父の介護のために家族で後から引っ越してきたから何も知らなかった。
ここまで書くともうわかると思うけど、抗議したの俺なんだよね。
受験控えてて神経質だったから怒りっぽくなってた。
今思い返しても、別に間違ってはいないし後悔もいしてない。
でも事情を知ってたら、たぶん抗議には行かなかったともおもう。
後、猫が急激に増えたのは、上の理由のほかに、猫が好きだった母親に少しでも元気を出してほしくて、男の子が拾ってきた分もあった。
いつか、猫と遊んでるその子に、何気なしに「猫がすきなの?」って声をかけたことを覚えてる。
いつもうつむいてばかりだったのに、そのときだけ男の子は笑ってた。
現実的に考えれば、男の子は施設に送られることが最良の選択な気がするけど、俺が母親にストレスさえかけなければ、回復した母親とそれを支え続けた二人の、親子の笑顔があったのかもしれない。
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