陰険な知り合いAの話

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

昨日、今日と帰省してきた。

俺の郷里ってのが海と山に挟まれた小さな町で、スーパーくらいはあるけど、山を越えないとデパートとか、そもそもが駅さえ無いようなと田舎なのな。
子供時分も、山側と海側に小学校が一校づつ、海側に中学校が一校しか無くて、それ以外に隣り合う校区ってのが無い、小さな小さな世界で暮らしてきたわけ。

そんで俺は海側の人間で、中学に進級すると山の奴らとも同じ学校になるわけだけど、とにかく奴ら、排他的っていうか、全員が同じ一族みたいな気味悪さがあってさ。
人数が俺ら海側の1/4くらいしかいなかったので、萎縮して固まってたのかもしれない。
あと俺らの方は同じ、と田舎暮らしではあるけれど、大半の世帯は港の工場勤めだから、いくらか町の外の世間に向かって拓けてた。
山村の連中とはその辺で雰囲気とか他人との距離の取り方とかにズレがあったように思う。

それでもまだ子供だから、時が経つにつれ打ち解けて、山の奴らとも一緒に遊びに行ったりするようになってね。

ある日、山側のガキ大将のAって奴の家に遊びに行った。
Aの家は古びた土壁の農家でさ、農機具をしまう離れ小屋があるような。
山の方の家はどこもそんな感じだったんだけど、Aの家の隣だけは不釣り合いに白くて綺麗で新しい、小振りだけどもお洒落な家だった。

で、その隣家の門から自転車に乗った見慣れない奴が出てきた。
こっちを一瞥して、サーッと通り過ぎていく。
髪を長く伸ばした色白で小柄な奴。
俺らはみんな、校則で決められた坊主頭だった。

俺:「誰だあれ?」

Aに聞くと、お隣のボンボンだと。
俺らと同じ学校に通うのが嫌で、山向こうの学校に車で送り迎えしてもらって通っているのだ、と。
遊びに誘ってやったらドン鈍い奴で勝手に怪我した癖に、親に言いつけやがって、大変な目にあった、と。
だからお前も絶対に相手にするなよ、と言う。
だんだんヒートアップしてきたのか、機会があったら山に連れ込んでボコボコにしてやる、とまで。

それからすぐ中学を卒業、Aとも別の高校に進学したので山側の村に行くことは、それが最初で最後だった。
肥臭いのには辟易したしね。

高校を卒業すると大半が農業を継ぐか地元の工場勤めという中で、唯一俺だけ県外の大学へ。
それで、ようやく帰省してきた時の話になります。

郷愁に駆られて帰ってみたのだけれど、やっぱり家にいると退屈をする。
親父に車を借りて、近辺を走り回ってきた。
高校時代は通学に原付を使って片道一時間半、何も無い田舎町を顧みることなんか一切しなかったので、知らぬ間に変わった景色もあるだろうと、また変わらぬ景色には懐かしさが蘇るだろうと。

Aの家の側も通ったのだが、あの綺麗で瀟酒な白い家は窓ガラスが叩き割られ、あちこちにベニヤ板が打ち付けられ、ブチ壊された玄関の向こうに肥料袋だか飼料袋が積み上げられた廃屋と化していた。
Aの家と色々諍いがあったのは薄々感づいていた。
居たたまれなくて出ていったんだろうと思った。
そして昨日の夜、Aから電話がかかってきた。

A:『お前、今日○○に車停めとったろう?』

久しぶりとも何とも言わずに第一声がこれ。
ニヤニヤしているような悪意のある声だ。

A:『○○の親爺がめちゃ怒とるに。ぶち壊してやりゃあよかったって。一緒に行ってやるからお前謝りに来い』

何の事だかさっぱり分からなかったが、どうやら私道に駐車していた事で○○の親爺が怒り心頭らしい。
しかし普通の公道にしか思えなかったし、ほんの十分足らずの間、路肩の側溝に車輪を落としてしまうくらい隅に寄せて停めていたので、誰にも迷惑もかけてないはずなんだが・・・。

そう言うと、側溝から車を出す際に、打ち捨ててあった(としか思えない)板切れを車輪に咬ませた事も怒りの原因らしい。

A:『お前、あれただの板じゃなくて納屋の補修用の板やぞ。村のもんを勝手に使ったらただじゃ済まんのだぞ』

しかし、誰も近づく人間などいなかった。
なんで俺が側溝に車輪を落として難儀してたの知ってんだ?
こいつ家の中から見てたのか?
俺が停車していたところが見える家はAの家とその隣家しか無かった。

なるべく軽い風を装って、「悪い悪い。すまんかった。俺も明日には帰らにゃいかんで、Aからうまく取りなしといてくれ」と誤摩化し、話を逸らすつもりで、Aの隣家のことを切り出してみた。

俺:「隣の人、出てったみたいだね。倉庫みたいになってたけど」

そうしたら、『あそこはウチがちゃんと金払って借りとるだわ!どう使おうと勝手だら!』と激高。

なんで怒りだすのか要領を得ないまま、とにかく謝って宥めることに腐心をした。
通話時間は3時間を超えてた。

次の日、というか今日。
もう昨日って言っちゃってもいい時間だけど。
本当に帰ることにした。
その前に約束してあった小学校からの幼なじみBと昼過ぎから会って、夕方まで一緒に過ごして駅まで送ってもらった。
BはAと同じ高校に進み、山向こうの会社に勤めている。
近々一人暮らしをするつもりだと話していた。
Bのこともよく知っているのでAの隣家の件や電話のことを話してみた。

B:「Aの隣?あそこんちの主人が事故で急逝したんだよ。村の一本道で車が横転していたらしい。村の奴ら、誰も助けなかったんだよな。だから救助が遅れて助からなかったんだ。奴ら、事故が起きたのは十時過ぎだから農家は夜が早いんで気づかなかった、って言ってたらしい。」

B:「相当嫌がらせ受けてたみたいだし、そりゃ母子だけになりゃ出ていくだろ。可哀想にな、あんな綺麗な家を建てといてな。Aんちが借りてる?そんなの嘘だよ。勝手に物置にして荒らしてるだけだよ絶対。だいたい何も無い一本道でなんで車が横転したんだ?Aんちのやつが何かやったんじゃねぇの。仕掛けとかしてさ。Aだけじゃないけど、村のやつら異常だよ。異常。」

B:「お前が絡まれたのって、お前がこの町から出てったからに決まってんじゃん。俺だって山向こうで就職先探してたら、こっちで働けって、就職先世話してやるから、ってAが。それが聞いてみりゃ、あいつんちの農家の下働きだぜ。農家の婆さんと一緒に内職やれってんだぜ。で、毎日電話してきたり、車乗せて帰そうとしなかったりな。地元の工場で働けば人脈とかあるから有利だろ、とか。そんな事ばっか言ってくる。高校に上がってからのA知らないだろ。やたらやることが陰湿でよ。」

B:「山下って一人暮らししてただろ。あいつAとかに入り浸られて部屋の合鍵まで作られたんだぜ。そんで溜まり場にされて散々パシリにされてよ。高校辞めちゃったもんな。とにかく自分らと違う風になってくのが嫌なんだろな。出て行く奴も入って来る奴も嫌なんだろ、きっと。今、不景気で工場に行った奴少ないから、俺ばっかりがターゲットにならずに済んだんだろうけど。今はまぁ絡んでくることは無いな。こっちも関わらないようにしてるしな。」

B:「お前は一人だけ東京に出てったから、かなり憎まれてるぞ。嫉妬。嫉妬かもなぁ。同じ町で育って東京かよって。△△って女いただろ。結婚決まってて今年の夏には式を挙げるとか話してたのに破談だって。噂じゃレイプされたってよ。誰かやったかって?そんなの決まってんじゃん・・・。」

B:「先ほど、俺の一人暮らしの部屋の留守電にAからの伝言が入っているのに気がついた。あのニヤニヤした声で、『今度みんなしてお前んちに遊びに行くからなぁ』」

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