拉致未遂

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

当時高校一年だった俺は、海辺の我が家から友人宅へ向かうべく歩いていました。
時刻は午後九時をまわっていたでしょうか・・・住宅地とはいえ街灯も疎らで薄暗い海岸近くの生活道路に、俺以外の人影は全くありませんでした。

と、後ろから足音が聞こえてきました。
何気なく振り返ってみると、10メートル程後方に男がいます。
一見して、それほど若くないことだけはわかりました。
足音が早くなり、その男がどんどん近づいてきました。

『追い越すんだな?』と思っていると、その足音は1メートルほど後方で歩を緩め、俺にぴったりと追従する形になりました。
細い路地ならともかく、そこは幅員5メートル程もある道です。

明らかに意図的なその行動に、当時既に武道の有段者だった俺も、相手の真意を質すことはおろか、振り向くことすらできなくなっていました。
そのまま10メートルも歩いたでしょうか、後ろの男が再び早足になると、息がかかるほどに密着してきました。

この後の事を書と予定調和臭くなるので気がひけるのですが、事実なので書きます。

密着されて俺の恐怖が最高潮に達した瞬間、角を曲がって1台のバイクが近づいてきて、俺の前に止まりました。

「よ~お、久しぶり。」

それは中学時代の友人でした。
その時初めて目前の異様な状況に気づいたその友人が「え?誰?何?どうしたの?」と素っ頓狂な声を上げると同時に、男は不自然に顔を背けると、海岸方向に走り去っていきました。

横田さんが連れ去られたとされる場所から数キロ地点の海岸線で、彼女が失踪してから数ヶ月後に体験した実話です。

マスコミが彼女の失踪を報道した翌日、当時通っていた道場の後輩が「あの横田って俺の同級生なんスよ。」と言っていたのが、今でも鮮明に思い出されます。

拉致被害が風化しないようにこの投稿に残したつもりです。

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