強烈な臭気が鼻を突いた

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

今から15年前以上前の俺の話をしようか。

某多摩地域の大学に通ってたんだけど、地方から出てきて、知り合いもいなくて、不本意ながら合格した大学だったから、数か月でつまらなくなって、ほとんど授業にも顔を出さなくなってた。

インターネット始めたのもその頃からで、当時はまだまだISDNが普及していなくて、54kbpsのアナログモデムでゴリゴリ接続してた。
Win95も不安定で何度も再セットアップしてたな。

サイト数も今よりかなり少なくて、大企業や官公庁の公式サイトはあったけど、個人で運営しているサイトなんかわずかだったし、コンテンツも貧弱なものが多かった。

そんな中、創作怪談の投稿サイトを見つけた。
そこには掲示板やチャットルームがいくつもあり、何人もの常連達が毎晩のように集まって近況報告や次のオフ会の相談なんかしてた。

俺もオカルト系は嫌いじゃなかったし、何より一人暮らしの人恋しさから、いつしかそのサイトに入り浸るようになってた。

ただそこでは新参者に対する常連達の態度は至極排他的なだった。
掲示板ではレスが付くことはほとんどなく、付いたとしても「空気が読めない人がカキコしてるんで、管理人さん削除よろしく」みたいな、余所者は認めないよという雰囲気を漂わせていた。

チャットルームに入室しても挨拶もそこそこに、常連でしか共有できない話題に終始し、酷い時には新参者が入室したと同時に、そこにいた常連全員が別のチャットルームに移動なんてこともあった。

俺も正直彼らの態度が面白くなかった。
けれどもいつかはその輪の中に入っている自分の姿を思い浮かべながら、相手にされていないと分かりつつも、「そうですね~」みたいに相槌を打ちながらチャットに参加し続けていた。

ある日の事、以前掲示板に書き込みした内容に一人の女の常連がケチを付けてきた。
彼女は物書きをやっているらしく自分に自信のあるタイプ。
チャットでもあまりいけ好かない女だったので俺はなるべく関わらないようにしていたが、チャットルームで偶然出くわしてしまった。

何人もの常連がいる前で女に嘲笑される俺。我慢できなくなり反論した。すると、他の常連達も
女に加勢し、袋叩き状態にされてしまった。

誰かがICQあたりで連絡を取ったのだろう。
そのサイトの管理人で今でも著名な創作怪談師がチャットルームに姿を現した。
俺の意見は彼に取り上げられる事もなく、問答無用でルームから追い出され、出入り禁止となった。
その際の彼の一言が、こうだ。

創作怪談師:「お前はウチの常連に暴言を吐き、サイトの治安を乱した」

創作怪談師:「呪ってやる、お前の家の前にウンコをしてやる」

なんとまあ、大の大人の吐くような台詞とは思えない内容だが、そこからが奴らの恐ろしいところだった。

当時俺は独自ドメインを登録しており、掲示板に書き込みしたメールアドレスはフリーアドレスではなく、独自ドメインのものだったのだ。常連の一人がWhoisですかさず個人情報を調べ、一時間後には自身のサイトに俺の本名、住所(アパート名も記載)をアップし、掲示板へURLを投稿し拡散を始めた。

創作怪談師:「あいつのアパートにみんなで押し掛けるオフ開催決定!」

創作怪談師:「ピンポンダッシュは必須だよね?」

創作怪談師:「呪符を玄関に貼りつける準備しなくちゃ」

掲示板では常連達が俺の事で盛り上がっていた。
こちらとしてはたまったものではない。
個人情報をアップしていた奴に掲載を止めるようにメールを送り、止めないようなら法的手段も辞さないと一言付け加えてやった。

そもそもWhoisで検索できるような公開情報なのだから、突っぱねられればそれまでだったのだが、相手はあっさりと情報の削除に応じた。
しかし、時すでに遅し。
常連達の雰囲気に押され、管理人が行動に打って出ようとしていた。

「あいつの家にウンコします、脱糞します」

怖い。

しかしこんな下らないことで警察に相談するのも恥ずかしい。
取りあえず表札を外し、近所のホームセンターで真っ黒な斜光カーテンを購入して取付け、テレビも照明も消した状態で布団に潜り込みガタガタと震えるうちに夜を迎えた。

住んでいたアパートの周辺は樹木が生い茂り、昼間でも薄暗く気味が悪い。
アパート通路の照明も大家がケチな為にほとんどが切れかかっており、俺の部屋の前のものに限っては、完全に切れていた。
更に救われないのが8部屋中、2部屋しか入居者がおらず、俺の他には生活保護を受けた老婆が一人。
夜半に不審者が訪ねてきても目立たない最悪の環境であった。

23時。

静寂を破る物音。
何者かが玄関前に置いてある洗濯機に何かをしている。
ゴトッ、バキッなどというプラスチックが割れるような音。
俺は恐怖し、そのまま布団をかぶり息をひそめ続けた。
屋外の不審者はまだ洗濯機で何かをしている。
しばらくすると物音が消えた。
どうやら立ち去ったようだ。

俺は忍び足で玄関に近づくと、そっと扉を開けた。
その瞬間、強烈な臭気が鼻を突いた。

汚物臭である。

扉の傍らにある洗濯機、大きめの糞が目に飛び込んできた。
猫の糞にしては流石に大きすぎる。
誰がどう見ても便秘気味の人糞にしか見えない。

奴は洗濯機の上に乗り、そこで脱糞したのだ。蓋は無残にも修復不可能なヒビが入っており、割れかかっていた。
俺は怒りと悲しみと後悔の念で一杯になり、その場で涙した。

翌日親に電話で事実をありのまま語り、大家も不憫に思ったらしく、所有している近所の別のアパートに入居させてもらえた。

引越しも大家の息子が経営する内装屋の若い人達が手伝ってくれたので、金銭的にもかなり助かった。(家賃はアップしたが)

親にはかなり怒られ、ネット環境を取り上げられそうにもなったが、心を入れ替えてちゃんと大学に通い、四年間で卒業する事を条件に許してくれた。

俺はその後、約束通り留年することもなく無事に大学を卒業し、就職した。
そして約15年後、何気に2chのオカルト板を眺めていると、例の管理人のハンドルネームがあった。

奴は未だに公の場で活動を続け、ネットラジオや書籍への投稿、イベントまで開催していた。
洗濯機の上に脱糞したのが奴かどうかは分からない。
ただ、脱糞を宣言していたのは奴だけだから、もしや・・・。

ボーナスを満額使って興信所に調査依頼をした。
そして今、俺の手元には奴に関する調査資料がある。

コンドハオマエノバンダヨ。

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