小学生の頃、疎遠だった伯父が正月三が日も終わらないうちから、たった一人で訪ねてきました。
普通は私たちも挨拶するのですが、両親は「必要ない」と。
不思議でしたが、伯父の行動も不思議でした。
朝は早くからあちこち出かけて行き、夜は父と遅くまで話し込んでいるようでした。
お年玉なんか期待してたのに、一度も顔を合わせることがなく、残念でなりませんでした。
でも三日めの朝、伯父と偶然顔を合わせることになったのです。
それはトイレでのこと。
順番を待っていると、先に入った人が出てきたのです。
見慣れない格好なのですぐ伯父だと分かり、挨拶しようと顔を見た瞬間、息を呑みました。
顔は『青白い』を通り越してなお白く、目はまっすぐ前を見ているのですが、焦点が合っていません。
しかも白目の部分には赤や青の血管が浮かんでいました。
そして目尻は吊り上っています。
口は閉じかけでも閉じきることなく、かといって開いてるとも言えないくらい。
そんな人の表情を今まで見たことがありませんでした。
背筋が寒くなり、硬直した私の側を通り抜けて、伯父は客間へ姿を消しました。
そしてその直後、家を出て行ったのです。
後で聞いたところ、伯父は借金で首が回らなくなり、わざわざ遠縁を頼ってきたのも金策のためだったのです。
結局我が家も余裕がなく、援助できなかったのです。
そして翌朝、警察から『伯父らしき人が公園で首を吊っているので確認してほしい』と連絡がありました。
まちがいなく伯父だったそうです。
その話を聞いてぞっとしました。
伯父はあの朝、すでに死を覚悟していたのではないでしょうか?
あの時見た伯父の顔、あれこそ死相というものだった。今でもそう信じています。
後日談ですが、伯父が使っていた客布団はその後祖母や母が使うようになりました。
ところが夜必ず金縛りに会うようになり、結局一週間でお寺に供養に出してしまいました。