はじめて見た身内の遺体

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

ばーさんが口走った話。

ひーばーさんの兄が、俺が小学校3年か4年の頃に亡くなった。
死因は散歩中にぽっくり逝ったと聞かされてた。
大人になって、正月の話題で「はじめて見た身内の遺体」という話になった。
ひーばーさんの兄の話を俺がした。
もうボケはじめていたばーさんが、口を滑らせて本当の事を口にしてしまった。

ひーばーさんの兄は、しくわ谷という所で自殺したんだそう。
しくわ谷は地元の学生でも知ってる有名なスポット。
深夜徘徊する年寄りが身投げするとか、そこに財宝があるように見えるとか、そんな噂が俺らの世代でもあった。
でも実際は違うらしく、底には祠と林しか無いんだそう。

谷とは言っても見通しの良いストレートで、左右にガードレールもある。
唯一違う点は、そのスポットの左右には何も無い。
山なんだけどそこだけ削り取られていて、道だけがポツンとある。
見晴らしが凄く良い。高さは30mくらいだと思う。
かといって地元の人間は、朝の散歩コースにするほどだし気にしてはいない。
でも遺体が見つかるのは必ず海側の地面だそうで、祠があるのもその方角なんだそう。

ばーさん曰く「あそこは結界の外やからなぁ」と言う。
結界は、祠と巨大な岩で三角形を2つ形成するように出来てる。
昔話や伝説によると、結界が出来たことによって高波や土砂崩れでの死者はいなくなったんだそう。

その結界とはまた別のものかもしれないけれど、結界がどうとか言うばーさんがちょっと怖かった。

あと何が怖かったって、ひーばーさんの兄もそこで亡くなった郵便局員さんも、自殺する理由なんて無かったんだよね。
もっといっぱい亡くなった人はいるみたいだけど、ひーばーさんの兄は病気もせず100歳近いのに1日1万歩歩くような人で、郵便局員さんは新婚で幸せいっぱいだったはずなんだ。

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