怪しいメロン売りの連中

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

今から5年位前かなぁ。
学生アルバイトで俺はテレビゲーム屋の店員をしてたんだ。
その時店内には、店長ともう1人のバイトの人間がいた。
その日は休日だったが客の入りは良くなかった。

しばらく店内の雑用をこなしていたら、ツナギを来た中年の親父が入ってきた。

「いらっしゃいませ」

店長がそう言いきる間もなく、その男はカウンターレジにやってきた。

男:「あ、あの・・・」
店長「はい、何か?」

男:「メロン買いませんか?」

俺たち『はぁ!?』

話によると男は東北の方からやってきた業者だという。
メロンを安く売るから買わないか?とのことだった。

店長は最初はそんなの結構ですと断っていたんだが、そのうち男は「じゃあ試食だけでもしてくれ。美味しかったら買ってくれ。そうじゃなかったら買ってくれなくていいから」と、そんなことを言い出した。

店長:「じゃあ試食だけだったら・・・」

店長が折れるのを確認すると、その男はちょっと待っていてくれと一旦外へ出てメロンを取りに言った。
俺は何がなんだかわからず、ポカンとしていた。
正直メロンが好きじゃなかったからどうでも良かったんだが・・・。
ただ、その男の様子がどこかぎこちないところだけは気になった。

数分後男が戻ってきた。
メロン一箱とまな板、そして大きな包丁を引っさげて。

さすがに刃物を見た店長の顔も固まる。
バイト君だった俺も背中に冷たい汗が走った。

そんな俺たちをよそに男は箱の中からメロンを一個取り出すとおぼつかない手付きで、その場で切りはじめた。

その手付きはどこかぎこちない。
ただメロンにすぅーと入っていくその包丁の切れ味は確かなものだと分かった。
その切っ先を見ていると、なんか俺は嫌な予感がしたんだ。

「さぁ食べてみてくれ」

一口サイズに切られたメロンを口にする店長とバイト君。
メロン苦手な俺も場の雰囲気に逆らえず渋々口にすることになった。

メロン嫌いの俺が言うのもなんだが、それはお世辞にも美味しいとはいえないメロンなんだろうな。
口に中に入れた瞬間にぴりぴりとしびれてくる感じがした。

俺だけがそんな感じか??と思ったら他の2人にとってもいまいちだった様で、結局買わないってことになったんだ。

「美味しかったら買ってくれるって話だったよな?」

そう言う男の手にはずっと包丁が握られている。
目がだんだんとすわってきていた。

店長:「いえ、ちょっと口に合わなかったものですから・・・・・・」
男:「一個3000円でいいんだ。1人1000円ずつ出せば買えるだろうに」

店長:「だから口に合わなかったんですってば」

店長はほとほと困り果てた顔をしていた。

そんな店長の顔色とは対照的に、包丁を持った男の顔はだんだんと昂揚して赤くなってきていた。
俺も隣のバイトも恐怖でかちこちになっていた。
男の様子からキレる・・・というのが余裕に想像できたからだ。

しかし意外にも「分かった」ものわかり良く男はそう言ったので、俺たちは内心ホッと胸をなでおろしていたんだがその後、男は意味不明なコトを口にした。

「俺は帰る。その代わりメロンの箱を外まで持ってきてくれないか」

男はそんなことを言った。

持ってくる時は全部自分で持ってこれたやん?
帰りも一人で持っていけばいいのに???

その場にいた3人誰もが皆そう思っていた。
俺たちは動かなかった。
男もまた、俺たちが動くまで動かなかった。

そのまましばらくすると店の中にお客さんが入ってきた。
小さい子供だ。

変なことになると大変なので、「店長、俺が持ってきますよ」と、言って早くこの男に帰ってもらうことに。
俺がメロンの箱を抱えて歩き出すのを確認すると、男は後ろから付いてきた。
心配になった店長がその後に続く。

店の前には良く見かけるありふれたバンが止まっていた。
これが男の営業車らしい。

「車に積んでくれ

男が後ろのハッチを空けると、中にはメロンの箱の山が詰まれている・・・かと思いきや、中はもぬけの殻で、代わりに同じくツナギを来た男がいた。

目つきの悪い男だった。

「ここに置いておくよ」

なるべくその男の顔を見ないように車の中に置くと、逃げるように車を離れた。
俺の背中でハッチドアを閉める音がする。
その直前に車の中にスタンバッテいた男の「チッ!」という舌を打つ声が確かに聞こえた。

彼らはそのまま素直にバンに乗り込むと車を急発進させ、町の中に消えていったのだった。

店長がいなかったら、さらわれるか殺されていたかもしれない。

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