黒い塊で村が全滅

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

山好きが高じ、地質学者になった奴がいる。

ある時、彼は秘境だとか奥地だとか言われる高原に向かって、赤茶色の山腹に切られた道を車で走っていた。
山には草木がほとんど無く、埃っぽく、そのせいでやたらと空が大きく、明るかったという。
その明るい谷間に、黒い雲のような塊が、こんもりと浮かんでいるのに気付いた。

同行している地元の学者もほぼ同時に気付き、あわてて車を停車させ、無線機にかじりついた。
黒い雲のような塊の周囲を鳥が飛び交い、その下の川は魚が群れ、泡立ち、まるで川が煮え立っているようだった。
どうやら、鳥も魚もその黒い塊が目当てらしい。

無線機での交信を終えた学者が、その光景について説明した。
あの黒い塊は、虫なのだという。
まだ成虫ではなく、たいがい、成虫になる前にほぼ全滅するが、正確に言えば全滅させるという事らしい。
10年程度の間隔を置いて大発生し、鳥も魚も、ひたすらその虫を食い続けるのだという。
そして、学者が無線機で交信していたのは地方行政府の役所で、最終的に彼の報告は陸軍の地方司令部

鳥や魚がその虫を夢中で食う理由について、学者は簡潔に答えた。

「あの虫、大人になると何でも食っちまうんだ」

あれが成虫になると、鳥も魚も無事では済まないらしい。
確かに、それなら必死になるかもしれない。
で、なぜ軍へ連絡を?
重ねて尋ねると、学者は、分からないのか?という顔をして、「何でも食っちまうからだ」と答えた。
駆除しそこなうと?

まいったな、という顔で、学者は見渡す限りの茶色い山を指差し、「何でも食っちまうんだよ」村が全滅したこともあるという。

広い中国の一地方での話だ。

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