死ねばそこへ捨てる

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

かつて、死んだ家畜は山へ捨てていたという。
どういった理屈によるものか、水源近くの急流に投げ込み、死んだ家畜が、災厄をもたらすのを防いでいたと聞かされた。
今では家畜以外のペットなども、死ねばそこへ捨てているという。

捨てるという表現はどうかと思うが、地元でそう表現するにはやはりそれなりの理由があるのだろう。

死んで捨てられた動物が、夏の盛り、水浴びをする。
急流に首まで漬かり、暑さをしのぐ。
それを見たら、桃の実を穴に投げ込むよう言われた。

地元の人:「動物が追いかけてくるからね。」

私:「桃はどこに?穴はどこに?」

地元の人:「行けば分かる・・・」というのが、答えだった。

水浴びが行われる急流脇に、テントを張った。
今夜あたり水浴びするんじゃないか?と、皆、そう言っていた。
見られるものなら、予定を変更してでも、”それ”を見たいと思った。
見えなくても、それで良いと思った。

崖の下に桃の木が植わっていて、青い、小さな実をつけていた。
よく枯れずにいるものだ。
穴はそのすぐ後ろだ。
奥行きは2メートルもない。
穴というより、えぐられた跡のようだった。

夜中、テントから出て急流を覗き込んだ。
急流の中、数知れない動物が流されもせず、水面から頭を出していた・・・。
身動きもせず、牛や馬、山羊、鶏、犬などが水に漬かっている。
流れが乱れるわけでもない。
激しい流れの中、多くの動物の頭が静かにあるだけだった。

息を呑むとか、不気味とか、そういった感覚ではない何かが胸を打ち、涙がこぼれそうだった。

頭だけの動物たちが静かに動き、桃の木の後ろにある穴に消え、やがて全ての動物が穴に入った。
桃の木から小さな実をもぎ、穴の中に投げ込もうとした。

穴の中には何もいない。
動物の臭いさえない。

投げ込もうとした実を、そっと穴の奥へと転がした。
何かが心のどこかを満たし、今度こそ、涙が溢れた。

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