まだ死んでいなかったかも

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

大学病院に勤めていたインターン時代、一度だけ仕事中に腰を抜かしたことがある。

深夜、凍死したホームレスの解剖を手伝った時のことだ。
凍ったままでは解剖できないから、私は遺体にお湯をかけ15分ばかりマッサージに専念した。

すると、遺体が「ゲフッ」とゲップしたのだ!

マッサージで肺が刺激されたためで、これだけならそう珍しいことではない。
だが遺体の右腕がすうっと5センチばかり持ち上がったのには驚いた。

温まって硬直が解け、腕が下がるのなら分かるが、上がるというのは理論的にあり得ない。
ドクターに報告すると、「筋反射だろう」という。

そんなこともあるのか?と疑問に思いつつ、解剖に入った。

胴体の正中線を切り、内臓をすべて抜き取り、首から下が空っぽのズタ袋のようになった時点で、それは起こった。

遺体が喉のあたりから「あ”ー」というような音を発したのだ。
ギョッと立ちすくむ私に、ドクターは「ガス、ガス!(ガスが声帯を揺らした)」と言い捨てたが、その彼の声も心なしか震えていた。

そして極めつけは、頭蓋をノコで切断し、脳をそっと取り出していた時。
遺体は、今度はハッキリ、唇から「いや”あ”」という声を漏らしたのだ!

これはもう、医学的に絶対説明つかない。
ガスが発生する要素はすでになく、声を発する気管も食道ごと抜いているのだから。
私は黙って廊下に出て、へたり込んでしまった。

妙な経験といったらこれぐらいだが、あれは何だったのだろうと、今でも不思議に思う。

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