突然消えた子

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

母方の実家が結構でかい家なんだよ元は武家とかだったらしい。
で、本家から歩いて10分くらいにあるところに神社があって、そこは分家が管理する所になってる。

代々長男が本家を継ぎ、次男が神社を継ぐそういう決まりらしい。
神社の息子がそのまま神社を継げばいんじゃね?とか思うんだけど、なぜか次男には息子が生まれない。
産まれても女の子ばっか。
だから、本家の次男が継ぐって決まりらしい。

昔は先代の末娘を嫁に貰い、婿養子としては言ってらしいけど、少し前から自由恋愛とかで普通に養子のみらしい。

そうやってかなり長い月日をそのような形で家を守ってきた。
家康が天下取りする前からの家臣だとかいうんで、それなりに長いらしい。
興味無いんであんまりしらないけど・・・。

だけど祖父の代で異変が起きた。
長男である祖父に弟が出来たすぐ後に、なんと分家に男の子が誕生したという。

いままでも珍しくはあったが、何度か男の子が生まれることはあったらしい。
だけど、全て9つの歳を迎える前に死んでしまったんだと。
だから、『その子』も大きくならずに死ぬと思われていた。

だが、予想を裏切り『その子』は9つを過ぎてしまった。
そしてなぜか『その子』は本来分家を継ぐはずの弟と瓜二つだった。

むろん血のつながりはあるので、似通うのはおかしくない話だ。
しかし、それだけでは説明できないほどよく似ていた。

まるで双子にしか見えない『その子』と弟は似ているのが外見だけではなかった。

弟が好きなものは『その子』も好きで、弟が嫌いなものは『その子』も嫌い。
何をするにも似通っていて、少し不気味だったらしい。

しかし、当の本人たちは、とても趣味が合う従兄弟としてまるで兄弟のように育ったという。

高校を卒業する年のこと、2人は親戚一同の前に呼び出された。
問いただされたのは神社を継ぐ意思があるかというものだった。
分家を継ぐものとして育てられた弟はもちろん、『その子』も継ぎたいと言った。

まさか、『その子』がここまで生きているとは思ってなかった大人たちはとても悩んだらしい。
その結果、ひとまず神系の修行をさせ、ふさわしい方を継がせることにしたという。

2人は同じ大学に進んだ。
家から離れ、同じ下宿に住んだ二人は切磋琢磨し合いながら、仲良く修行に励んだという。
やはりそこでも双子に間違われていたと聞く。

祖父は時々彼らの元を酒を片手に訪れては、朝まで飲み明かしたりしたという。
弟はちびちびと大切そうに舐めるのに対して、『その子』は豪快に煽るように飲んだそうだ。
ただ、飲む量は変わらず、うわばみ二人に対して持ってきた酒はすぐになくなり3人で他の部屋に酒をたかりに行ったらしい。

ところがある日、『その子』が消えたという。
雨が長く続いた日に突然傘も持たずに下宿を飛び出し、あっというまに走り去っていった。
それ以来、『その子』は現れることはなかった。

『その子』が生きていればもう100を越える歳なので、さすがにもう生きていまい。

結局、分家は元通り弟が継ぐことになった。
大事な息子がいなくなった先代は急に老けこみ、弟は若くして神主になって、大学中に知り合った女性と結婚した。

ただ、祖父には不明な点があったらしい。
今までいくら似ていても弟と『その子』の区別はついていたのだが、大学を終えて帰ってきた「彼」が弟なのか『その子』なのかわからなかったという。

そして不思議なことに酒を一緒に飲んでも、ちびちびでも豪快でもなく普通に飲むようになったという。
ただ、飲む量は前よりもはるかに増えた。

本当に消えたのは『その子』なのか、それとも弟なのか。
今ここにいるのが一体誰なのかわからないとそう祖父は言っていた。

だが、それをいくら両親たちに言っても、誰も信じてくれなかった。
ただ一人祖父だけが、変わった弟に違和感を覚え続けた。

そのことにうすうす感づいていただろう弟とは自然に距離が開き、いままでのように無礼講に騒ぐことはなくなったそうな。

思い出を語る時の祖父の悲しげな表情と、「あれはもとより一人の人間だったんじゃないか」という言葉が忘れられない。
分家を継いだ「弟」だが、結局子をなすことなく私が生まれるよりも前に死に、後を、本家の次男が継いだ。

その次男も結局娘が2人できたばかりで、後は従兄弟が継ぐ予定だ。

ブログランキング参加中!

鵺速では、以下のブログランキングに参加しています。

当サイトを気に入って頂けたり、体験談を読んでビビった時にポチってもらえるとサイト更新の励みになります!