最後は食べるつもりだった

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

うちの爺さん、若い頃に仲間と登山して遭難した経験があったんだよ。

四日くらい山の中を彷徨っててようやく救助されたらしいが、助かったのは爺さんだけ。
でもその時に仲間に肩貸してて(もう死んでたらしいが)どうにか一緒に山を下りようとしたって事で、武勇伝というわけじゃないが、一種の美談みたいな感じで親戚の間では有名だった。

それで俺が子供の頃なんだが、ある時爺さんに俺だけ呼ばれて内緒話された。
実は爺さんは、仲間を助けようとしたわけじゃなかったらしい。

そもそも仲間とは遭難した時点でパニックになってて、言い争いを繰り返す険悪な状態。
食料も少なくギスギスしてて、とても助け合うような雰囲気じゃなかったらしい。

なのになんで仲間を運んでたのか?というと、食料が無くなった時の為だったと言った。
つまり、最悪の事態になったら仲間の死体を食うつもりだったらしい。

爺さんは本当の事を話したら揉めて殺したんじゃないかと疑われると思って、ずっと言えなかったらしい。

本人としても早く忘れたい過去だったんだろうが、前述の通り美談みたいな扱いにされた上、自分で話したがらないのが逆に謙虚という事でどんどん広まってしまったという。

そうなってしまうともう安易に訂正もできず、ずっと口を噤むしかなかったそうだ。

俺に話したのは、俺が孫の中で唯一の男で自分の話にあまり詳しくなかったから、真実を知ってもショックじゃないだろうと思ったからだと言った。

実際には俺は滅茶苦茶ショックを受けてたんだが、暫くすると今度は婆ちゃんに呼ばれたんだよ。
そして、爺さんからこういう話を聞かなかったか?と例の話の事を尋ねられたので聞いたって答えた。

すると婆ちゃんはそれは嘘だと言ったんだよ。
「爺さんはお前の事が嫌いだから、お前を遠ざけようと怖い話をしたんだよ。真に受けちゃ駄目だからね」って。

俺は結構な祖父母っ子だったから今度も物凄いショックを受けて、その後は爺さんとはあまり話さないようになった。

その後数年して爺さんが死んで、俺が高校生くらいの頃、婆ちゃんも体調が悪くなって入院するようになった。

爺さんが居なくなってから、若干ボケ始めてた事もあって親戚はあんまり見舞いとか行かなくなってたんだが、何かあると病院が近所だったのと俺が子供の頃祖父母っ子だったって事で、使いに出される事が多かった。

それで俺が見舞いに行った時に突然婆ちゃんが泣き始めた。

何事か?と思うと「ごめん、酷い嘘を吐いた」と謝りだした。

実は爺さんの話が嘘だと言ったのが嘘であり、婆ちゃんは真実を隠す為に俺を騙したらしい。

爺さんは婆さんに隠してたそうだが、婆ちゃんは気付いていてずっと気にしており、
俺が話を聞かされた時に、俺が周りに触れまわったりしないか心配だったそうだ。

「爺さんがあんな酷い事をしたと知られたら爺さんが傷付く。爺さんを守ってやりたかったんだ、ごめんよ」と婆ちゃんは言ってた。

その後少しして婆ちゃんも死んでしまったんだが、その話がずっと引っ掛かってる。

確かに爺さんの話はあまり褒められた内容じゃないが、そこまでして守りたい秘密だったんだろうか?

少なくとも爺さんの話では仲間に直接何かをしたわけじゃなかったはずだ。
でも婆ちゃんは『あんな酷い事をした』とまで言ってた。

まさか爺さんが仲間を殺して食料を奪った?それとも仲間の死体を食いでもしたのか?

もしくは婆ちゃんが最初に言った事が真実で死ぬ前の話の方が俺を慰める為の嘘?あるいは全部ボケかけてた婆ちゃんの妄想か勘違い?

登山とか遭難ってワード聞く度、もう真実知ってる人は誰も居ないのに余計な疑惑だけ思い起こされて後味悪い。

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