有名な迷宮入り事件がまだ絶賛捜査中だった、昔の話。
父のところに警察の聞き込みがあった。
犯行声明に使われた和文タイプライターと同機種を父が購入していたから。
任意の事情聴取が執拗に続いた。
というのも父は昔学生運動で逮捕歴があって、服役もしていた経歴の持ち主。(地元警察では動静を常時マークしていたらしい、と後々知る、当時は知らなかった。)
あの事件の裏は労働運動のゴタゴタが伏線にあるとか言われてたっけ。(後日知った)
一連の犯行時刻のいくつかに、父には明白なアリバイがなかったそうだ。
父は逮捕歴があるから企業就職は無理と、自営できる国家資格(和文タイプライター必須、弁護士ではない)で独立開業していて、事務所で一人で仕事をしていたことが多かったから、アリバイ証明できなかったんだろうと思ってた。
ようやく父の疑いが晴れたようで、表向き普通の生活が戻ってきた。
でもあの事件の頃度々警察が聞き込みに来たことで近所の視線が一転。
完全に白眼視だ。
世間の目が痛いというのを体験した。
母も父の学生運動家の過去は知らずに結婚したので、ぎくしゃくしだした。
父のアリバイを最終的に証明したのは、学生運動時代の仲間の女性(昔の恋人)と会ってたことが確認されたからだった。
そのことを知った母はもう壊れた。
うつになり、日常生活を送るのも困難になった。
父は母の生活費のATMの役目を続けた。
母の入院生活を金銭的に支えていたけれど、心の交流は昔の恋人に求めていたんだろうと思う。
俺は両親には無関心になることで自分を守ったような気がする。
やがてあの事件は時効になり、母も亡くなり、自分も大学から下宿して自宅には殆ど寄り付かなくなり、父はあの女性と再婚したと聞いた。
父が問題の和文タイプライターを購入しなければ、母はまだ元気でいたのに・・・・と思う取り返しのつかない修羅場の始まりを思い出した。