引っ越しでの異様な光景

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

最初に書いておくけど、スッキリはしない話だし、真相は分からない。
3年前の話だけど、俺はバイト代のいい、大きめの引越屋で働いていた。

ある老夫婦(よぼよぼしてた)が、ある日依頼してきた。
一軒まるごと引越すると、見積もり出して、オッケーもらって、引越し当日荷物を梱包してトラックに積んだ。
そして引越先にいったら、鬼のような顔をした女性に、「帰れ!」って叫ばれた。

先に到着していた老夫婦は、品が良く愛想が良かったのも嘘のように女性につかみかかり、罵倒しまくってた。
さらにお爺さんの方が、女性の髪の毛をひっつかんで、ふりまわして地面に投げ倒して、「お前の家じゃねえ!私達の家だ!」とか何とか言ってた。

俺ともう一人はトラックから荷物降ろすのもどうかと思いオロオロ。
近所中が集まって、「お前らの家じゃないだろ」「ここはooさんの家だろ」と騒いで、お巡りさんがきて、結局老夫婦は警察が連れて行き、俺達ポッカーン。

女性は顔にかなりえぐい傷ができていて、血をたらしながら、ボサボサの髪や服もそのままで、無表情で「申し訳ないです。ご迷惑かけました。でももう二度とここには来ないでください。お願いです。お願いです」と何度も棒読みでお願いされたのが、ものすごい怖かった。

あ、近所の人たちが責めてたのは、依頼人の老夫婦の方ね。
女性は守られてた。

それで結局、老夫婦が住んでる家は引き払ってるし、捨てるわけにはいかないから、自社のトランクルームに家具はおさめたんだけど、荷物引き取りに表れた老夫婦の息子が、「何でトランクルームになんていれるんだ。引越代以外の金がかかるだろ」とごねにごね、本当は次の引越先への配送料はひいてやろうとしてたんだけど、社長が切れて、きっちり配送料も入れて請求した。

引越屋の上の人って気が荒いから、その人が「出るとこ出ますか」と一喝しただけで、息子は大人しく払ってた。

その何日後か、顔にえぐい絆創膏(白いガーゼみたいなの)何枚も貼った、例の女性がやってきて、大物のゴミを片付けるサービスを頼んできた。
捨てたものは、一部屋分の仏壇含めた家具道具類。

それが、刃物でメタメタに切り裂かれたり、斧か何かで割ったんじゃないかというような傷つけられたりした状態で置かれてた。

玄関から家の中は、新築じゃないけどよく手入れされて綺麗だし、庭にも草花いっぱいあるのに、その一室だけ、本当に殺人事件の場所みたいな感じになってた。
作業中の俺ともう一人、一言も話せなかったわ。

女性、まだ無表情で棒読みでしか話さないし!
会社では、「旦那(息子)が自分の両親(老夫婦)勝手に同居させようとして、嫁がキレたんだろ」という推測で終わったけれど、あの部屋の異様さを見た俺は、それだけじゃないと思ってる。

だって仏壇や位牌も割られてたし、金ぴかの仏像(30センチぐらいのやつ)まで刃物で切った後があったから。
バイトはもうやめたけど、いまだに思い出す修羅場。

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