もしそこで逃げていなければ全員・・・

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

小学生の頃、近くの原っぱが次々に造成地へ変わっていった。

どんどんアスファルトの道路ができた。
当時のマンホールには小さな穴が開いていた。

導火線の長い爆竹に火を付けて、その穴の中に落とすのが仲間内で流行ったことがあった。

爆竹を入れてからマンホールに耳を当てて、音を聞くのだ。

ある日、悪友だったみっちゃんが「ごっついええ音するところがあるねんで」とまだ造成の終わっていない原っぱに私を連れていってくれた。

背の高い雑草をかき分けて歩いていくと、急に地面がコンクリートになっているところに行き着いた。

少し違う形をしたマンホールが3m間隔くらいに5つ並んでいた。

「ほれ、入れてみ。ここはマンホールに耳を当てんでもええで」と言って、爆竹に火をつけてくれた。

「どん!」とかなり体に響く音がして、マンホールが少し動いた。

「どないや、すごいやろ」とみっちゃんは誇らしげにしていた。
しばらく二人で爆竹を入れて遊んでいた。
そのうち、みっちゃんの顔がぱっと明るくなった。

「お前、よしくんとのりちゃん、呼んでこい。わいはさとる連れてくる」と言って、みっちゃんは自分の家へ走っていった。

内心では「これ、絶対にあかんことになる」と思いながらも、気の弱い私は二人を呼びに行ってしまった。

よしくんものりちゃんもさとるも大喜びだった。
そして、全身が笑顔になっていたみっちゃんは「みんなで一緒にいれるで~」と言って、どこから持ってきたのか、マッチを私たち4人に配った。

「ちゃんとせえよ」

みっちゃんは私を睨んだ後「せーので一緒に入れるねんで」と本当に嬉しくてたまらない様子でみんなに言った。

私たち5人がそれぞれマンホールの側に立って「せーの」と声を合わせて、火の点いた爆竹を穴に入れた。

「どん」という音が重なって聞こえたが、音量は一人で入れていたときと大して変わらなかった。

しかし、私が爆竹を入れたマンホールから真っ黒な煙が出てきたのだ。

「お前、たまにはええことするなあ」と喜ぶみっちゃん。
他の3人も口々に私を賞賛してくれた。

しかし、煙がどんどん激しくなっていったので、「これ、ちょっとあかんで。離れたところから見よう」と原っぱを出た。

そのとき「どっか~ん」とかなり大きな音がして、原っぱから煙がもくもくと立ち上った。

「空飛ぶ円盤や!」とのりちゃんの指差す方を見るとUFOが3つ飛んでいた。
私はもうその時点で目がウルウル状態になっていた。

4人が一斉に逃げていく中、小心者の私はその場に凍りついてしまい、泣きだしてしまった。

「円盤のおっちゃんに捕まって、怒られて、拷問されるんや・・・」

みっちゃんが戻ってきた。

「あほう、あれはマンホールが飛んどるだけや。早よ、帰ろ」と私の手を掴んで一緒に走ってくれた。

「なんや?」
「どないした?」
「工事現場で爆発や」
「あんなところにマンホール落ちとるで」
「そら、あかん。救急車、呼んだって」

と付近に住んでいる人たちが、わらわらと表に出てきた。

幸いなことに周りは原っぱの部分がかなり残っていたので、私たちは見つからずに離れたところまで行くことができた。

「ごっつい音やったな」
「マンホール、よーさん飛んだなあ」
「まっくろけの煙、まだ出とるで」

と四人が目を輝かせて、いま起こった出来事を話し合っていた。
私だけがわんわん泣いていた。

そのうち、消防車、救急車、パトカーがどんどん来て、辺り一帯は騒然とした空気に包まれた。

「お前、家に帰っても絶対にこのこと言うたらあかんで」とみっちゃんに何度も何度も言われてから家に帰った。

結局、周りの住宅に被害がなかったことや負傷者が出なかったことから、原因不明の事故ということで終わったそうだ。

そして、その原っぱもさっさと造成されて、ビルが建ったとのこと。

もう随分昔のことなのに、鮮明に記憶が残っている。
大音響、そして、真っ黒な煙が立ちのぼる中、マンホールのふたが飛び、みっちゃんに手を引かれて一生懸命に走ったこと・・・。

以上、私の幼いころの死ぬほど洒落にならない話でした。

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