あの時、あのじいさんを怒らせなくてよかった

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

母の話。
母は父を早くに亡くし、十代の頃は、いわゆる不良というやつだった。

高校生だった母はその日、祖母は夜勤の仕事に出掛け、弟(叔父)が部活の合宿でいなかったので、不良仲間を数人自分の住む団地へ呼び、酒にタバコだとワイワイ騒ぎ狂っていた。

深夜の2時を過ぎた頃、ピンポーンとチャイムのなる音が聞こえた。

こんな時間に誰だ?と母がチェーンロックの掛かったドアを開けると、そこには見覚えのないじいさんが1人立っていた。

すると「誰やー?」と不良仲間の1人のAが母の隣にやってきた。
「なんやねんお前?」と母がじいさんにガンをつけると、じいさんは「自分は下の階の者だが、少し騒ぎすぎじゃないか」と母に言った。

団地のあるある話なのかな。
下の階の住人が、騒いでいる上の階の住人に苦情を言いに来たようだった。

Aは酔いが回っていたのか「なんで、お前にそんなこと言われなあかんのや」と完全にキレてしまい、今にもじいさんに掴みかかろうとしていた。
すると、さっきまでガンを飛ばしていた母が「すみません!」といきなり頭を下げた。

A:「なんでお前がコイツに謝るんじゃあ!」

Aは更にカッとなったが、それも母は必死に抑えつけ、「もう静かにしますんで。お騒がせしました」と更にじいさんに謝り続けた。

すると、じいさんも納得したのか、「これからは気をつけてくれ。」と言い、階段を降りていく。
母もドアを閉めた。

納得のいかないAは「なんでお前あんな謝っとるんじゃ!」と母を巻くしたてたが、母の様子は完全に参った・・・というものだった。

おかしいと思ったAが「どうしたんや」と母を問い詰めると、母は言った。

「チェーンしてたし、あんたの居た位置じゃ見えんかったんやろうけど、あのじいさん、右手に包丁持ってた。」

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