父のフリをしていた者

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

どう書いたものか散々悩んだのだけど、ぶっちゃけちゃう事にしよう、私は父親が苦手だ。

苦手とは言っても嫌いなわけではなく、普通に会話もすれば買い物だって一緒に行く。

誕生日にはプレゼントも贈るし、端から見れば苦手と思ってるようにはとても見えないと思う。
ただ幼少の頃の怖い体験のせいか申し訳ないと思いつつも、未だに苦手意識が拭えない。

今思い返してみてもあれは何だったのか分からないのだけれど、ほん怖らしい話ではあるのでその原因となった出来事を書かせてもらいます。

小さい頃の私はお父さんっ子で、父親が家に居る時はそりゃもうべたべたと甘えていた。
当時は父親の働く会社の社宅に住んでいて、

間取りはダイニングルーム、寝室兼子供部屋、リビングと縦一列に繋がっており、リビングから廊下を挟んで父親の書斎、その隣が玄関で、トイレ、風呂という並びだった。

寝る時はダイニングルーム側から父親、母親、私、兄という順で布団を敷いて一緒に寝ていた。

ある日怖い夢を見て夜中に目を覚ましてしまい、なかなか寝付けずもぞもぞしていたら台所の方に人の気配を感じ、体を起こして見てみると食卓の椅子にこちらに背を向けるように父親が座っていた。

その日父は仕事で帰りが遅く、私と兄は先に寝ていたので、普通に「あ、お父さん帰ってきたんだ」と思った。

嬉しくなって小声で「お父さん」と声をかけたのだけど、振り向いてくれない。
聞こえなかったのかともう一度声を掛けたのだが、背をむけて座ったまま反応が無かった。

無視する様な父親ではないのになんでだろうと不思議に思い、夜中に目を覚ましてしまった心細さもあって隣で寝ている母を踏まない様に気をつけながら父に近づいた。

その頃の母はいつも父親が帰ってくるまで起きていたので、もうこの時点でおかしい事に気付いていいものだが、当時の私はまだ幼稚園に入ったばかりだ。

その隣で寝ていた父親も踏まない様にと足元を気にしたところでやっと気付いた。
父親が布団で寝ている。

あれ?じゃあこの人は誰だろうと、もう一度座っている男の人を見た。

さっきまで父親と思っていた動く様子のないその男性が途端に怖くなった。

泣きそうになるのを必死で我慢しながら母親を起こそうと揺すったのだが起きてくれない。

次に兄を同じように起こそうとしたが駄目だった。
男の人は相変わらず背を向けたまま座っていて、振り向いたらどうしようという恐怖が襲ってきた。

もうさんざん声を掛けていたので今思い返すと私の行動は矛盾しまくっているのだが、
出来るだけ気付かれない様に気をつけながら寝室からそっと逃げ出し、リビングでもまだ安心できず、結局逃げ込んだ先は間取りで一番離れていた父親の書斎だ。

そこで男の人が入って来れない様にドアを押さえていたのだが、いつの間にか疲れて眠ってしまったようで、気が付くと朝になっていて母親に「あんたこんな所で何してるの」と起こされた。

起こされた場所はやはり書斎であれは夢じゃなかったんだと思った恐怖と、母親が起きてくれた安心感でわんわん泣いてしまった。

夜に見た男の人の話は結局母親には話さなかった。
そのせいで未だに母親には昔こんな事あったよね、と当時の事をからかわれてしまうのだが。

その日から私は父親が怖くなってしまい、それまでの様に甘えなくなった。
今では父親は完全なとばっちりで何も悪くないのは分かっているのだけど、子供の頃の恐怖は大人になってもなかなか拭えないということで・・・ここでこっそり暴露しておきます。

書き込むにあたりもう一度あの時見た男の人はどんな姿だったのだろうと思い出そうと努力はしたのですが、当時最初に父親と認識してしまったせいか、どうしても思い出せませんでした。

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