死ぬ事を決断した連中

カテゴリー「日常に潜む恐怖」

あれは二年前の事だったと思う。
昔の事なので少々記憶が曖昧だが。

その頃オレは、まだ完全には裏道を進んでいなかった。
多少ヤバイ事はしていたものの、血と暴力は生理的に受け付けなかったのでヤクザ者との関わりは持たなかった。
当然、気が付かれない様に住む場所を変え、名前を変えて日本中を移動している。
時折、依頼を受けて仕事をする事はあったが、依頼人と直接会う事は極力避けた。
まあ、便利屋と言う奴だ。

その様に世間に気を配って生きていた小市民のオレ様だが、ある時、歌舞伎町での仕事でスジ者と揉めて追いかけられる事となった。

向こうは俺の顔を知らないだろうから、半端な素人崩れが縄張りを荒らしたので焼きを入れる位のつもりかもしれないが、事務所にでも連れて行かれたら人定されかねない。
捕まる訳にはいかなかった。

新宿駅は、丁度忘年会シーズンと言う事もあって、うじゃうじゃと人が居た。
この人ごみに紛れれば大丈夫か?そう思ったが、其れが甘かった。
当然、待ち合わせがくれば人は居なくなるわけで、ヤクザが居なくなるまで紛れていられないからだ。

ヤバイ・・・。

駅の入り口は固められているし、目つきの悪い連中がうろうろしている。
オレは顔を隠して居るから直ぐには見つからないだろうが、ずっと居れば相手も馬鹿じゃないし、見つかる危険が高くなる。
その時、変な集団が集まりつつあった。

如何にも、社会人とは異質な雰囲気の、何と言うか暗い空気の流れる集団だ。
ぼそぼそと挨拶しているが、初対面のようにぎこちない。

これはもしかして・・・オフ会というやつか?

裏道を進みかけのオレでもネットぐらいはやる。
これに紛れて逃げよう。
そう判断した俺はおどおどとした演技をしながらその集団に入る。

一言二言会話すると、なんかのチャットのオフ会のようだった。

ビンゴ!

オレは内心気味悪い連中だと思いながらも、天の助けに思った。
連中は点呼を取るでもなく、時間が来たようで移動を始めた。
予約は取ってあるようで、歌舞伎町の裏にある怪しげな店に入っていく。
オレも近寄らない様な処に入るこの連中は何者か?

しかし、歌舞伎町内では其れこそ身動きが取れない。
やむなく付いていく事にした。

店の入り口で人数確認した幹事のような男は、人数が会わない事に戸惑ったようだが、店員(でかい黒人)に何事か話すと全員入ることができた。

中は薄暗くて見通しが悪く、どうなっているのか良く判らなかった
しかし、20人ぐらいは入れる部屋に案内されたところから、案外広い店なのかもしれない。
部屋に入ると中は当然薄暗く何か余計ヤバイ状況に陥ったような気がした。
連中は自己紹介するでもなく沈黙したままで、中にはぶつぶつと独り言を言う奴もいる。
女も居るようだが、顔は良く見なかったし、こちらも見られると不都合があると思っていたので連中の顔を良くは見なかった。

えらく長い時間が経過した様な気がするが、店員が料理を持ってくると幹事らしき男が暫くして漸く話し出す。

「今回はお集まりいただいてありがとう。ネットで知り合っただけだけど、『さいご』にこういった出会いがあって良かったと思う。」

は?
何を言っているんだろうか?

オレはそのまま聞き流す。
口を挟む雰囲気ではなかったし、背中に冷たい汗が流れる感覚は、裏道人生の中で幾度か経験する危険信号。

こいつらはヤバイ。
ヤクザとは違うヤバサがある。
オレはそう感じた。

しかし、今更出て行くわけにも行かないし、そんな度胸はなかった。
この世界は下手な勇気よりも、臆病な心のほうが必要な物。
成り行きに任せる事にするが、決して飲み物には手をつけなかった。
周りの連中を見ると、酩酊状態になっているのも居る。
オレはそういった連中を観察して同じような感覚を演じた。

一時間ぐらいだろうか?

時間の感覚がないし、時計を見る事も薄暗くてできない。
携帯なんか出せるわけもない。
周囲に溶け込む事に専念しなければ『異端』として認識される恐れがあった。
第一、何の集まりかも判らないのに、下手な言動は命取りになりかねない。
オレは冷や汗を流しながら次の動きを待つ。
間違っても声を掛けられないように、又、声を掛けられても誤魔化せるように酔った振りをする事に専念した。

そうして、漸く動きが起きる。
店員が車の用意ができたと言ってきた。

連中は半分酔いながら、ふらふらと店の裏口(入ってきた方向とは逆だから、多分)から出て行く。
真っ黒い大きなワゴンが路地に止めてあり、運転席には顔色の悪い浮浪者風の男が座っている。

つんとする臭い。
長く風呂に入らないと臭ってくるあの臭い。

店員は目で幹事らしき男に合図するように見えた。
店員は店に入って行き、路地は奇妙な静寂にあった。
空を見ると雲の切れ間から月が見える。

連中がワゴンに乗っていくが、これに乗ったら降りられない気がしてならない。
走って逃げる事以外にないが、それにはワゴンに全員乗り込んでから出ないと、大勢に追いかけられそうで怖かった。
もっとも、連中は酔って?いるのでそんな心配はないのだが、オレは膝に力が入らなかった。
怖かった。

連中が乗り込んでいくのをオレはただじっと待っていた。
だらだらと乗り込む連中に、タイミングを計るオレ。
これほど時間が長く感じた事はない。

漸く、幹事とオレ以外乗り込むと、オレは逃げる為に体を強張らせる。
強引に力を込める事で恐怖を押し潰そうとした。

だが、幹事が唐突に言葉を掛けてきたのでオレはタイミングを逃してしまった。

ばれたか?!
心臓が跳ね上がる感覚。
こいつを殴り倒して・・・・。

そう本気で覚悟した時、幹事が言葉を継いだ。

「あんた、部外者だろ?」

どうやら、幹事にはばれていたようだった。

オレは警戒して無言でいたが、幹事はかまわず呟くように言った。

「これは、自殺者の集まりだ。あんたは帰れよ。忘れちまいな」

ワゴンはオレを残して走り去る。
連中がどこに言ったのか知らないし、本当に死んだのかもわからない。
しかし、死ぬ事を決断した連中の目と雰囲気は忘れられなかった。

最後の晩餐に紛れ込んだ事は、オレにとっては吐き気のするような体験だ。
下手すればそのまま連れて行かれたかもしれない訳だしな。
幹事に救われたという事か?
それとも、無関係の人間に死に際を汚されたくなかったのか?
知りたくもないし、知る必要も無い。

しかし、確実に自殺する奴は増えているのは確かなようだな。
お前らも、変な連中を見ても関わらないようにしろよ。
必要以上の好奇心は、命で代価を支払う事にもなりかねない。

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